
最近の三重協奏曲演奏は面白い!
ピアノ、ヴァイオリン、チェロによる
ベートーヴェンの三重協奏曲。
魅力的なソリストが三人も揃うため、
近年は注目の演奏が目白押しです。
でも、だからといってあれこれ音盤を
買いそろえるわけにはいきません。
で、やはりストリーミング。
新旧いろいろと聴いてみましたが、
この3枚が気に入りました。
【今日の1枚目】ジェイコブセン
ベートーヴェン:
三重協奏曲ハ長調Op.56
ヤン・フォーグラー(vc)
アンティ・シーララ(p)
コリン・ジェイコブセン(vn)
ザ・ナイツ
エリック・ジェイコブセン(指揮)

〔併録曲〕
ベートーヴェン:
交響曲第5番ハ短調Op.67「運命」
ザ・ナイツ
エリック・ジェイコブセン(指揮)
録音:2012年
この2週間ほど、
いろいろな録音を聴いてみたのですが、
活きのよかったのが
このザ・ナイツの伴奏による演奏です。
先週このザ・ナイツのベートーヴェン
「クロイツェル協奏曲」を
取り上げましたが、
同じ路線で鮮烈な演奏となっています。
ベートーヴェン作品としては
「二級品」と見なされがちの
この曲において、これだけ生き生きと
ソリスト三人が跳びはねている演奏は
ないのではないかと思うのです。
大家を揃えればいいのではない、という
見本のような演奏です。
刺激的な演奏のもととなっているのは、
おそらくチェロの
フォーグラーでしょう。
これまでの録音でも、新しい解釈を
いくつも聴かせてくれましたが、
ここでも随所にチェロの
清々しい音が響いています。
加えてヴァイオリンは
ジェイコブセン兄。
自由闊達なヴァイオリンが
美しい旋律を奏でていきます。
ピアノも軽やかなタッチで
チェロやヴァイオリンに負けじと
頑張っています。
そのピアニスト、
アンティ・シーララですが、まったく
名前を聞いたことがありませんでした。
経歴を調べてみると、なんと
ウィーン・ベートーヴェン
国際コンクール最年少第1位!
ベートーヴェン演奏の
スペシャリストなのでした。
併録されている
交響曲第5番も素敵です。
発売当初話題にならなかったと
記憶しているのですが、
魅力的な録音であることは
間違いありません。
音盤として所有したいと思う一枚です。
【今日の2枚目】

ベートーヴェン:
三重協奏曲ハ長調Op.56
ニコラ・ベネデッティ(vn)
シェク・カネー=メイソン(vc)
ベンジャミン・グローヴナー(p)
フィルハーモニア管弦楽団
サントゥ=マティアス・ロウヴァリ(指揮)
〔併録曲〕
ベートーヴェン:
25のスコットランドの歌Op.108
第2曲:日没
第20曲:忠実なジョニー
26のウェールズの歌Op.155
第8曲:さようなら、喧噪の町
第25曲:別れのキス
第18曲:やさしいリチャード
20のアイルランドの歌WoO153
第11曲:故郷を遠く離れて
12の各国の歌 WoO157
第8曲:シャノン川のほとり
22のスコットランドの歌WoO156
第1曲
ニコラ・ベネデッティ(vn)
シェク・カネー=メイソン(vc)
ベンジャミン・グローヴナー(p)
ジェラルド・フィンリー(Br)
アイルランド民謡/クライスラー編:
ロンドンデリーの歌
ニコラ・ベネデッティ(vn)
シェク・カネー=メイソン(vc)
ベンジャミン・グローヴナー(p)
録音時期:2023年
2枚目のこちらは、さらに
躍動感溢れる演奏となっています。
ザ・ナイツに比べて
オケが厚いためでしょう、第1楽章など
かなりパワフルに聞こえてきます。
そのなかで、三人のソリストの楽器が
鮮明に記録されているのが魅力的です。
ザ・ナイツ盤が
シンプルで室内楽的であるのに対し、
こちらはややロマンティックな
表現となっています。
ベネデッティのヴァイオリン、
そしてカネー=メイソンのチェロが
甘美な旋律として流れてきます。
第3楽章のそれぞれの楽器の
掛け合いの部分などは
聴き応え満点です。
しかもそれでいて甘ったるくならず、
まるで大空に駆け上るような爽快感を
持った演奏となっているのです。
ベネデッティについては
「ちょっと派手目なお姉ちゃん」、
カネー=メイソンについては
「明るすぎるチェロ」という
印象を持っていましたが、
この録音を聴いて考えが変わりました。
併録されている民謡集も
聴き応えがありました。
三重協奏曲の余白に
この民謡集という構成は素敵です。
この録音も、音盤として所有したいと
思わせるものがありました。
【今日の3枚目】クレアモント・トリオ

ベートーヴェン:
三重協奏曲ハ長調Op.56
クレアモント・トリオ
エミリー・ブラスキン(vn)
ジュリア・ブラスキン(vc)
アンドレア・ラム(p)
サンフランシスコ・バレエ管弦楽団
マーティン・ウェスト(指揮)
〔併録曲〕
ベートーヴェン:
ピアノ三重奏曲第1番変ホ長調Op.1-1
クレアモント・トリオ
録音:2012年
最後は、音盤を購入しようとして
なかなかいい状態のものが
見つからなかった
クレアモント・トリオの演奏です。
ベートーヴェンの三重協奏曲の場合、
ピアノ、ヴァイオリン、チェロの
三重奏団がそのまま
ソリストとなるケースが多く、
その場合、息のあった演奏が
売り物となっています。
本録音もその通りで、それぞれが
火花を散らしたりするわけではなく、
調和を優先させて演奏している
印象を受けます。
それでいて、(再生機器もしくは
録音技術の問題かもしれないのですが)
三つの録音の中で
最もチェロの音がよく聞こえます。
また、アンドレア・ラムのピアノは
音が転がるような音色であり、
一つの味わいとなっています。
美人のお姉さんが
演奏していることからくる先入観が
かなり入っているのですが、
全体的にエレガントさを感じさせる
仕上がりと感じます。
併録曲のピアノ三重奏曲については、
AMUではなぜか第1楽章だけ
再生できず(Amazon側の意地悪か?)
聴いていません。
これまでベートーヴェンの
三重協奏曲といえば、
リヒテル、オイストラフ、
ロストロポーヴィチの
超大物ソリスト三人と
カラヤン&ベルリン・フィルの
超豪華メンバーによる録音が
「名盤」として君臨してきたことから
わかるように、
曲そのものの魅力よりも、
どんな顔ぶれを集められるかを
競い合うような一面がありました。
こうして聴いてみると、
昨今の録音状況はそれとは
違ってきていることがわかります。
ソリスト三人が
それぞれの持ち味を発揮し、
曲の魅力を最大限に引き出そうとする、
協奏交響曲としての色合いが
濃くなってきているのです。
そう考えると、まだまだ魅力的な録音が
潜んでいるはずです。
ストリーミングを活用して、それらを
掘り出していきたいと思います。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。
(2025.1.28)
〔関連記事:ベートーヴェンの音楽〕



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