ピリオド楽器によるベートーヴェン・後期弦楽四重奏曲集
今年もいよいよ今日で終わりです。
日本ではなぜか大晦日に
ベートーヴェンの第九交響曲を
聴く習慣が根付いてしまいました。
私も年末年始と言えばこれまでは
ベートーヴェンの交響曲全集か、
ワーグナーのオペラを
聴いてきましたが、
最近は胃もたれするようになりました。
今年はこれで
締めくくりたいと思います。
最近何度も聴いている、
モザイク四重奏団のベートーヴェン・
後期弦楽四重奏曲集です。
ベートーヴェン:後期弦楽四重奏曲集
ベートーヴェン:
弦楽四重奏曲
第12番変ホ長調 op.127
第14番嬰ハ短調 op.131
第13番変ロ長調 op.130
大フーガ変ロ長調 op.133
第15番イ短調 op.132
第16番ヘ長調 op.135
モザイク四重奏団
エーリヒ・エーバルト(vn)
アンドレア・ビショフ(vn)
アニタ・ミッテラー(va)
クリストフ・コワン(vc)
録音時期:2014,15,16年
録音データに
「A=432Hz」「ガット弦使用」と
記載されていることからわかるように、
モザイク四重奏団は
ピリオド楽器の弦楽四重奏団です。
アーノンクールの手兵として知られた
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスの
団員によって1985年に結成されました。
古楽器オケの演奏や
古楽器による室内楽演奏は、
もはや珍しいものではなくなりました。
しかし古楽器による弦楽四重奏は
決して多くはありません。
特にベートーヴェンともなると、
その録音は
数えるだけしか存在しないようです。
そうした意味では
貴重な録音なのですが…、
音盤はすでに流通しておらず、
中古盤がたまに出ても
高額なために手を出せず、
残念な思いを抱えていました。
いい時代になりました。
ストリーミングで聴けるのですから。
聴いてみました。やはり素敵です。
ヴィブラートを
抑制しているせいでしょう、
きわめて自然体の演奏です。
聴いていて疲れません。
素朴でまろやかな音楽が
続いていくのです。
第12番は
第2楽章の美しさに魅了されます。
後期様式を代表する
変奏曲となっているこの楽章で、
モザイク四重奏団は
じっくりと曲の旨味を引き出し、
聴き手に伝えてくれます。
第14番は第1楽章冒頭から
引きつけられます。
憂いを秘めた旋律から始まるのですが、
モザイク四重奏団は
決して重く引きずることなく、
かと言って軽く弾き流すのでもなく、
丹念に彫り込んでいるのです。
そして変化の激しい最終第7楽章では、
実に豊かな表情を見せていくのです。
第13番も見事です。長大なこの曲を、
飽きることなく聴かせてくれます。
特にしみじみと奏でられる第5楽章が
深い味わいを感じさせます。
続く終楽章の「大フーガ」も
重苦しさを感じさせずに
先鋭的な旋律を
まろやかに聴かせてくれます。
第15番は、長い第3楽章が魅力的です。
ここでもモザイク四重奏団は
じっくりと細部を彫り込んでいきます。
決していそぐことなく丁寧に
一音一音を紡ぎ上げたような演奏です。
そして最後の第16番の
第3楽章の美しいこと。
感情を抑えながら、
楽譜の中にある旋律の豊かな滋味を
そのまま取り出したかのような
演奏です。
何度も繰り返し聴いてみたいと
思わせる演奏です。
近年のベートーヴェンの
弦楽四重奏演奏は、多彩です。
尖った演奏によって
スリリングな展開を見せているものも
いくつか登場しています。
それも好きですし、
興奮してしまいます。
また、前世紀までの
重厚な演奏も決して否定しません。
しかし、モザイク四重奏団の奏でる
ベートーヴェンは、
どこまでも穏やかな表情で、
人の生き方について豊かに
語ってくれるような趣があるのです。
声高に自己主張したりせず、
何の押しつけがましさもなく、
ただただベートーヴェンの音楽の姿を
丁寧に描き上げているのです。
その朴訥さに、
最初は閉口するかもしれませんが、
聴き慣れるとその深奥にある味わいを
しっかりと感じ取れるはずです。
このように素敵な録音なのですが、
音盤は現在廃盤となっていて、
流通していません。
たまにネットオークションに
出品されても
高値過ぎて手が出ませんでした。
こんなときこそストリーミング。
スマホで操作し、アンプで受信し、
スピーカーから出力すると、
CDと同等の音で響き渡ります。
いい時代になりました。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。
それでは皆様、
よいお年をお迎えください。
(2024.12.31)
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