嫌な予感がしましたが…
以前、ヒギンボトム指揮による
モーツァルトのレクイエムを
取り上げました。
すべて男声、つまり
合唱のソプラノ、アルトに少年合唱を、
ソリストのそれには
ボーイ・ソプラノ、ボーイ・アルトを
起用した演奏です。
その天国的な美しさに魅了され、
ほかにそのような音盤がないか
探したら、ありました。
不思議な盤が。
モーツァルト:レクイエム
モーツァルト:
レクイエム 二短調 K.626
〔ジュスマイヤー版〕
アンドレイ・アゾフスキー(B-S)
ドミトリー・トゥルクミャンツ(B-A)
アレクサンドル・ユデンコフ(T)
レオニード・フェドロフ(Bs)
A.スヴェシニコフ記念モスクワ国立
合唱学校少年合唱団
管弦楽団(名称不詳)
ヴィクトル・ポポフ(指揮)
録音:1988年
ジャケットのデザインの悪さに、
嫌な予感がしました。
オール・ロシアのメンバーでの
1988年(ソ連崩壊直前)の演奏に、
嫌な予感がしました。
名称が記載されていない
オケの演奏であることに、
嫌な予感がしました。
まあ、中古盤を
格安で購入したのだからやむを得まい、
そう思って聴いてみました。
嫌な予感は的中しました。
録音がよくありません。
細かい部分の音が聴き取れません。
そして声とオケの
バランスが悪すぎます。
当時のソ連の
録音技術が未熟だったのか、
それとも体制崩壊の余波を受けたのか。
Veneziaレーベルは
ヒストリカル音源専門、
本盤もヒストリカル録音の紹介という
リリースだったのかもしれません。
それでも声楽部分のみを
聴くつもりであれば満足できます。
驚いたのは少年合唱の下手さ加減です。
A.スヴェシニコフ記念
モスクワ国立合唱学校という
仰々しい名前を冠した
少年合唱団でありながら、
はっきり言って下手です。
練習不足なのか、それとも意図的に
まだ技術的には未熟な低年齢の生徒を
起用したか、いずれにしても
素人っぽさしか感じられません。
しかし、不思議なことに、
何度か聴いているうちに、
この「素人っぽさ」がなんともいえない
味わいに感じられてくるのです。
オケの音に負けないように
声を張り上げようとしているのですが、
その一生懸命な姿勢に
いじらしささえ感じてしまいます。
完璧なものだけが
素晴らしいのではないのです。
その一方で、
ソリストの二人の少年の歌唱は
しっかりとしています。
当然、不安定さは
ところどころに見られるものの、
少年の独唱としては合格点です。
ボーイ・ソプラノはその声の質が
透き通るような美しさであり、
特に「Benedictus」などは
惚れ惚れとしてしまいます。
ボーイ・アルトも表現力に富み、
「Recordere」では聴かせてくれます。
それにしても
モーツァルトのレクイエムの音盤は
ますます多彩になりました。
古楽器演奏の登場、
そして新しい版による演奏
(しかも指揮者各人がそれらに
微妙に手を加えている)、そこに
少年合唱演奏が加わるのですから、
もはや百花繚乱状態です
(弦楽四重奏版や
ピアノ独奏版を加えるとさらに絢爛)。
ポポフなる指揮者と正体不明なオケ、
いたいけな少年合唱と
魅力ある少年ソリストの奏でる
本盤の演奏も
十分愉しむことができました。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。
と、ここまで書いておいて何ですが、
本盤をAmazonで探しても、
音盤は流通していません。
amazon music unlimitedを
丹念に探すと、
おそらくは同一のものと思われる
音源を見つけることができました。
ソリストとしてクレジットされている
名前はすべて同一です。
なんと指揮者はポポフではなく、
あのドミトリー・キタエンコ。
そして名称不明のオケの正体は
モスクワ・フィル。
音盤のジャケットおよび
音源のアルバムアートワークにおける
ポポフの肩書きは
artistic directorとなっています。
音盤では、
指揮者:キタエンコと
演奏:モスクワ・フィルの表記が
何らかの事情で脱落したのでしょう。
1990年初頭に
メロディア・レーベルから
本音源を収録した音盤がリリースされ、
それが廃盤となり、
Veneziaレーベルから
ヒストリカル音源として
復刻されたものと考えられます。
ようやく謎が解けました。
(2024.12.24)
〔少年ソリスト演奏盤について〕
本盤とヒギンボトム盤以外にも、
シュミット=ガーデン盤が
あるようです。
そちらも機会があれば
聴いてみたいと思います。
〔関連記事:モーツァルト・レクイエム〕
〔モーツァルト・レクイエム音盤〕
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