ジャンルに囚われず、ハーンのヴァイオリンを味わう
最近再び聴くようになりました。
ヒラリー・ハーンの「SILFRA」です。
発売まもなく購入し、
聴いてみたのですが、その音楽が
まったくわかりませんでした。
2012年4月に発売ですから、
すでに12年以上が経過しています。
改めて聴くと、
その音楽の奥深さに驚くばかりです。
「SILFRA」
ヒラリー・ハーン&ハウシュカ
Stillness
Bounce Bounce
Clock Winder
Adash
Godot
Krakow
North Atlantic
Draw A Map
Ashes
Sink
Halo of Honey
Rift
ヒラリー・ハーン(vn)
ハウシュカ(プリペアド・ピアノ)
録音:2011年
発売当初、なぜ理解できなかったか?
それまで有名どころの協奏曲で
鮮烈な表現の録音を
次々と発表してきたハーンが、
室内楽をとりあげた途端、
不思議な方向へ進み始めたと
感じたからかもしれません。
期待していたところはベートーヴェンの
ヴァイオリン・ソナタあたりでした。
室内楽第一弾がモーツァルトの
ヴァイオリン・ソナタ集(2005年)。
いよいよ次か、と思えば、
いきなりアイヴスの
ヴァイオリン・ソナタ集(2011年)。
そして本盤。
本格的なクラシック音楽の路線から
一気にずれ始めたのです。
特に本盤は、クラシックの味わいの
まったくないアルバムであり、
好きになれず、CD棚の奥底で
眠ることとなりました。
先日、CD棚整理中に再発見し、
何となくもう一度聴いてみたところ、
そのヴァイオリンの瑞々しさに、
心を打たれたしだいです。
本盤でハーンと組んでいるのは
プリペアド・ピアノ
(グランドピアノの弦に、ゴム、金属、
木などを挟んだり乗せたりして、
音色を打楽器的な響きに変えたもの)の
第一人者であるハウシュカです。
彼の情報を検索してみると、
「ドイツの作曲家、ピアニストである
フォルカー・ベルテルマンの
ソロ・プロジェクト」なのだとか。
ソロ・プロジェクトとは、
「一人バンド」、つまり
「楽団ひとり」ということでしょう。
聴いてみるとたしかに
「ヴァイオリン・ソナタ」などという
範疇に収まる作品ではありません。
いろいろな音が現れては
消えていきます。
ハーンとハウシュカの二人で
創り上げているとは思えないほど
多彩な広がりを持つ音楽が
展開していくのです。
それにしても捉えどころのない
音楽の集まりです。
1曲目「Stillness」は、
表題通り「静けさ」を表した
音楽なのでしょう。
よくわかりませんが、シンセサイザーに
ヴァイオリンをかぶせたような音が
続きます。
わずか2分弱のそれが終わると、
次はプリペイド・ピアノが
強烈なリズムを刻む中で
ヴァイオリンが躍動する
2曲目「Bounce Bounce」が始まります。
こちらも表題通り、
「弾み」まくっています。
もはやロックです。
3曲目「Clock Winder」も、
環境音楽のような旋律の奥に、
何やら時計のような音が聞こえる、
不思議な音楽です。
と、全曲を
取り上げていきたいところですが、
つまりハウシュカが表現しているのは
「自然」なのだと感じます。
そしてそれを背景に、ハーンが自由に
ヴァイオリンを奏でている、
すべてがそのようなイメージなのです。
「クラシック音楽」という枠組みに
縛られていたから
「わからない」のだと気づきました。
ジャンルを意識せず、
聞こえてくるものをそのまま
受け止めるべき音楽なのです。
本盤がリリースされてからすでに12年。
主要協奏曲をすべて録音し終え、
しかし本盤以降
このような実験作は登場せず、
ハーンはこれからどこへ向かうのか?
現代を代表する
ヴァイオリニストの一人、
コパチンスカヤが理解の難しい方向へ
舵を切ってしまった以上、
ハーンにはもっと本格的な
クラシック音楽を続けて欲しいと、
ついつい思ってしまいます。
それはともかくこの「SILFRA」、
十分に愉しめます。
12年間CD棚に眠らせていた
自分が恥ずかしい。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。
(2024.11.3)
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