メロディ・チャオの素敵なハイドン

ハイドンのピアノ協奏曲全集を愉しむ

油断していました。
ハイドンは交響曲と弦楽四重奏曲、
ピアノ曲とオラトリオを聴いていれば
いいとばかり思っていました。
ピアノ協奏曲の存在を忘れていました。
いや、
持っていないわけではありません。
アルゲリッチ盤を聴いていたのですが、
併録のショスタコーヴィチの方ばかり
印象に残っていました。
今回入手したこの音盤、素敵です。

ハイドン
「ピアノ協奏曲全集」

ハイドン:
 ピアノ協奏曲 ヘ長調 Hob.XVIII:3
 ピアノ協奏曲 ト長調 Hob.XVIII:4
 ピアノ協奏曲 ニ長調 Hob.XVIII:11
 コンチェルティーノ
  ハ長調 Hob.XVIII:10
 ピアノ協奏曲 ハ長調 Hob.XVIII:5
 ピアノ協奏曲 ハ長調 Hob.XVIII:8
 ピアノ協奏曲 ハ長調 Hob.XVIII:1
 ピアノ協奏曲 ニ長調 Hob.XVIII:2
 ヴァイオリンとピアノのための
  協奏曲ヘ長調 Hob.XVIII-6

メロディー・ツァオ(p)
ダヴィッド・ネーベル(vn)
カメラータ・シュヴァイツ
ハワード・グリフィス(指揮)
録音:2020年

ハイドンのピアノ協奏曲は、
第11番が有名であり、
いくつも音盤がリリースされています。
「11番」というくらいですから、
少なくとも11曲はあるのかと
思っていましたが、ほかには3番、4番、
つまり3曲しかなかったのでした。
本盤はその3曲に加え、
オルガン協奏曲(1、2、5、8、10)を
モダン・ピアノで演奏、さらに
ヴァイオリンとピアノのための協奏曲
(第6番)を追加、
ハイドンのピアノ協奏曲の魅力を
十全に引き出しています。ちなみに
第7番、第9番のオルガン協奏曲は
偽作の疑いが強いために
カットされたのでしょう。
したがって、本盤が考えられる最大の
「ハイドン・ピアノ協奏曲全集」と
なるのです。
なお、発売元のHPによると、
「オルガン協奏曲は2020年に
発表された新エディションによる
楽譜が用いられており、この譜面による
録音は初のものとなります」との
ことです。

聴いてみると、チャーミングです。
雰囲気はまるでモーツァルト
ピアノ協奏曲です。
いや、モーツァルトよりも軽快であり、
ピアノが楽しく歌っているような
印象を受けます。
どこかに影を潜ませている
モーツァルトに比べ、ハイドンは
どこまでも明るく晴れ渡っている
イメージが広がっていくのです。
煌びやかさのあるモーツァルトに比べ、
ハイドンは素朴さが漂います。

1732 Haydn

ハイドンとモーツァルトの活動時期は
重なる部分が多く、お互いに
影響を受け合ったことでしょうから、
作風が似ているのは当然です。
それでもハイドンはどこまでも
ハイドンらしい味わいと
なっているのです。
なお、1781年頃には、ハイドンは
モーツァルトと親しくなっていたという
記録があるようです。
有名な「第11番」は、
作曲時期が1780年代であり、
したがって「第11番」が
最もモーツァルトの影響を強く受けた
作品ということになるのでしょう。

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さて、演奏者メロディ・チャオは、
スイス出身の中国系ピアニストです。
以前とりあげたベートーヴェンの
ピアノ・ソナタ全集
でも
素敵な演奏を聴かせています。
比較的軽めのタッチなのですが、
それでいて表情は豊かです。
技巧も確かであり、
流麗な演奏を披露しています。
ハイドンの創り上げた
リズミカルな旋律を、流れるように
音として紡ぎ上げているのです。
鍵盤から愉悦が
ほとばしっているかのようです。
そうした演奏スタイルは、
ベートーヴェン演奏においては
これまでの概念を打ち破るような
ピアノ・ソナタ全集に結実したのですが、
むしろそれは
ハイドンやモーツァルトでこそ
発揮されるべきものなのでしょう。

なんと彼女は1994年生まれ。
ベートーヴェンの録音時は
18歳でしたが、
本盤録音でもまだ26歳。
これからが楽しみなピアニストです。
モーツァルトのピアノ協奏曲1曲を
最近リリースしましたが、
それは新人ソリストを紹介する
企画アルバムのような形です。
彼女がいまだ「新人扱い」されているのは
不思議です。
どこかのレーベルから
モーツァルトやベートーヴェンの
ピアノ協奏曲全集を
出してほしいものです。

今日のオススメ!

メロディ・チャオによる本盤は
モダン・ピアノによる演奏ですが、
ハイドンですから時代楽器による演奏も
絶対に面白いはずです。
ハイドンのピアノ協奏曲全集は
意外に少なく、知られているところでは
コープマンによるチェンバロ演奏の
全集があるくらいでしょうか。
「第11番」については
BRILLIANTレーベルから
フォルテ・ピアノによる演奏も
出ているようです。
そうしたあたりを
探してみたいと思っています。

ハイドンのピアノ協奏曲の魅力、そして
ピアニストのメロディ・チャオの魅力、
その両方を味わえる素敵な音盤です。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。

(2024.9.29)

〔メロディ・チャオの音盤〕

〔ハイドン・ピアノ協奏曲の音盤〕

【今日のさらにお薦め3作品】

「アフリカのピアノ音楽」
モーツァルト「レクイエム」
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲全集

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