ブラームスの2曲のクラリネットソナタ
ブラームスのオーケストラ曲は
やたらボリューミーで、
年をとってからは
ほとんど聴くことがなくなりました。
その一方で室内楽曲、
特にクラリネットを含む作品は
静かで落ち着いた雰囲気があり、
好んで聴いています。
最近よく手が伸びてしまうのが
この一枚です。
シフとヴィトマンによるブラームスの
2曲のクラリネット・ソナタを収めた
音盤です。
ブラームス:
クラリネット・ソナタ第2番変ホ長調
Op.120-2
ヴィトマン:
ピアノのための間奏曲集
ブラームス:
クラリネット・ソナタ第1番ヘ短調
Op.120-1
アンドラーシュ・シフ(p)
イェルク・ヴィトマン(cl)
録音:2018年
発売元HPによると、
「2人の偉大なアーティスト、
ピアニストのアンドラーシュ・シフと
作曲家でクラリネット奏者の
イェルク・ヴィトマンが
初めて一緒に行った録音」とのこと。
二人の息がぴったり合って、
素敵な音楽世界が展開していきます。
ブラームスのクラリネット・ソナタは、
2曲ともブラームス晩年の作品であり、
枯淡の味わいのある、
落ち着いた曲です。
クラリネット五重奏曲であれ、
クラリネット三重奏曲であれ、
ブラームスのクラリネットを含む
室内楽作品はすべてこの
枯れた味わいが魅力なのですが、
ここでのヴィトマンの演奏は、
そうした流れとはやや異なっています。
明るいのです。
音色が。
十分に落ち着いた中で、
明るい響きを聴かせてくれます。
透明感といえばいいのでしょうか。
ブラームス特有の「渋み」を抜き、
クリアな味わいに仕上げたような
演奏です。
余計なものを付け足したりせず、
楽譜から読み取れる最大限のものを
音として表現したかのような、
知的でクールな演奏です。
だからといって
BGMや「癒やしの音楽」として
聞き流されるようなものには
なっていません。
感情や情緒といったものを排しながら、
音楽としての美しさを
徹底的に追究しているため、
弛緩している部分が
見当たらないのです。
ウラッハやプリンツといった
大家の演奏に慣れた方にとっては
薄味過ぎて味気なく感じられる
演奏かもしれません。
しかしこの「美しさ」は
一度引きつけられればなかなか
離れることができなくなるはずです。
本盤のさらなる特徴は、
この2曲のクラリネット・ソナタの間に、
演奏者ヴィトマンの自作の曲が
配置されていることです。
「ピアノのための間奏曲集」と
名付けられたこの作品、
5曲の小品からなる
ビアの独奏曲集です。
これも発売元HPによると、
「二人が共に敬愛している
ブラームスへの思いから
生まれた作品」なのだそうです。
現代音楽ではあるのですが、
そう思って聴くと、なるほど
ブラームス的なフレーズのモチーフが
散見されます。
クラリネット・ソナタでは
当然のこととして
伴奏に徹しているシフですが、
このヴィトマンの曲では、
小品でありながらも起伏の激しい演奏を
見せています。
そのため本盤を通して聴くと、
ソナタ第1番の「静」から
ピアノ曲の大きな「動」、
そしてソナタ第2番の小さな「動」と、
ピアノ曲を頂点とした一つの流れを
感じさせる構成となっているのです。
それを含めて、
きわめて現代的な音楽として
全体が仕上がっているのです。
録音も優秀で、
音楽が鮮明に捉えられています。
瑞々しい音がスピーカーから
こぼれ落ちてくるようです。
演奏・録音、ともに新しい時代の
ブラームスのクラリネット・ソナタと
いうことができるでしょう。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。
(2024.9.1)
〔関連記事:ブラームスの室内楽〕
〔ブラームス:clarinetソナタの音盤〕
〔シフ:ECMレーベルの音盤〕
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