コンパクトながら驚くほどの完成度
「あれ、モーツァルトのオペラ?」
慌ててジャケットを確認すると
やっぱりペルゴレージ。
DHM-BOXに収録されている
一枚です。
モーツァルトより40年以上早く生まれ、
モーツァルトの誕生の20年も前に
亡くなったペルゴレージ。
驚くほどの完成度の高さです。
ペルゴレージ:
歌劇「奥様女中」全曲
ボニファッチョ(セルピーナ:s)
ニムスゲルン(ウベルト:Bs)
コレギウム・アウレウム
録音:1969年
全二幕。
歌手はソプラノとバスの二人のみ。
演奏時間50分弱。
序曲なしでいきなり始まる構成。
何ともコンパクトなオペラです。
もともとオペラ・セリアである
「誇り高き囚人」の幕間劇として
創られたオペラですから当然です。
本体ともいうべき「誇り高き囚人」は
初演から不評だったため、
現在ほとんど演奏される
機会がなくなりましたが、
こちらの「奥様女中」は、
そのコンパクトさと完成度の高さから、
単独で生き延び、今日に至っています。
粗筋は以下の通りです。
金持ちで独身の頑固なウベルトと
その女中セルピーナは
今日も些細なことで言い争っているが、
実はお互いに好意を寄せている。
特にセルピーナは主人にぞっこん。
しかし主人が自分を愛しているのか、
それとも自分の境遇を
憐れんでいるのか、
確信がつかめずにいる。
彼女は一計を案じ、
下男ヴェスポーネ(黙役:台詞はない)を
軍人に仕立て上げる。
「許嫁である彼から
持参金を迫られている」として
ウベルトの気持ちをためすセルピーナ。
ついにウベルトは根負けして
セルピーナとの結婚を宣言する。
筋書きを精読すると、
ウベルトが金満家で
初老の独身であることや、
セルピーナは
幼いときから養われた割には
女主人気取りで振る舞っている
ことなどからイメージすると、
セルピーナは財産目当ての
悪女のような印象を受けますが、
本作品はそのような
どろどろしたものではありません。
終始爽やかな雰囲気の中で
舞台は進行していきます。
味わいどころは
二人の掛け合いでしょう。
台詞が理解できなくても、
二人が距離を取ろうとしたり
近づこうとしたりしている様子が
わかります。
特にセルピーナの、
甘えたかと思えば凛とすましている、
その表情の変化が楽しいかぎりです
(それが作曲者ペルゴレージの
指示なのか、歌手ボニファッチョの
演技力の成果なのか、
比較対象がないためわかりませんが)。
味わいどころの二つめは、
その音の良さです。
録音が1969年とかなり古いものですが、
音質的には
何ら不満を感じないどころか、
ソリスト二人の声が
伸びやかに記録されており、
音楽に没頭できます。
音の良さは大切です。
味わいどころの三つめは、
「歌」の愉しさです。
いつも書いているのですが、
台詞がわからなくても
「歌」が愉しめればいいのです。
ウベルトのアリアも素敵なのですが、
やはりセルピーナのアリアが
心に染み入るような出来映えです。
二曲だけなのですが、
一曲目の
「Stizzoso, mio stizzoso,
voi fate il borioso」
(いわゆる「おこりんぼさん」の名称で
有名なアリア)がチャーミングです。
ボニファッチョの歌唱が
ウベルトを手玉に取ろうとしている
セルピーナの心情を、
見事に表現しています。
また二曲目
「A Serpina penserete」
(セルピーナのことを忘れないで)も
哀愁を帯びた旋律が魅力的です。
この二曲だけでも十分に愉しめます。
舞台は二人の愛の二重唱で
めでたく幕を閉じます。
至福の時間を過ごした感覚で
一杯になることができます。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。
(2024.7.21)
〔ペルゴレージ「奥様女中」の音盤〕
録音の多い作品ではなかったのですが、
近年新録音がいくつか出現しています。
少年モーツァルトの
「バスティアンとバスティエンヌ」と
組み合わせ、フランス語による演奏の
ジャリ指揮の音盤は注目されます。
同じペルゴレージ作品の
「リヴィエッタとトラコッロ」との
組み合わせによる音盤
(cpoレーベル)も面白そうです。
そして何といっても本体
「誇り高き囚人」とともに収録された
映像盤(こちらは
入手が難しくなっている)も素敵です。
〔「奥様女中」のストリーミング〕
「Pergolesi : La Serva Padrona」
一部音盤と重複しますが、
以下のようなものが見つかります。
〔関連記事:DHM-BOX〕
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