アレグリ、ムンディ、そしてパレストリーナ
このことろ、ルネサンス期の
ポリフォニー音楽の美しさに
魅せられています。
ウエルガス・アンサンブルの音盤を
いろいろと購入しましたが、
こちらのタリス・スコラーズも
魅力的な録音が
数多く音盤となっています。
今日とりあげるのは
その中でも最高の一枚です。
アレグリ:ミゼレーレ
タリス・スコラーズ
アレグリ:
ミゼレーレ
W.ムンディ:
天の父の声は
パレストリーナ:
教皇マルチェスのミサ曲
タリス・スコラーズ
ピーター・フィリップス(指揮)
録音:1980年
1曲目の
グレゴリオ・アレグリ(1582-1652)は、
イタリアの作曲家であり、司祭であり、
歌手であるという
宗教家兼芸術家なのでした。
したがってミサ曲をはじめとする
教会音楽をいくつも書き残しています。
その中で最も知られているのが
本盤収録の「ミゼレーレ」です。
合唱の一方は4声、
もう一方は5声からなる二重合唱形態、
つまり聖歌隊の片方が
「ミゼレーレ」のシンプルな原曲を歌い、
空間的に離れた他方が、
装飾音でその「解釈」を歌うという
構成です。
2曲目のウィリアム・ムンディ
(1529-1591)については情報が少なく、
ネット検索しても
ほとんど出てきません。
ロンドンのセント・ポール大聖堂の
聖歌隊長として活躍した
記録が残っているようです。
やはり教会音楽としての
多声音楽を作曲したらしいのですが、
作品はあまり残っていないようです。
本盤収録の「天の父の声は」も
成立年が不明なのですが、解説によると
パレストリーナの
「教皇マルチェスのミサ曲」と
ほぼ同時期の成立と
みられているとのことです。
3曲目の
ジョヴァンニ・ダ・パレストリーナ
(1525-1594)は、
イタリア・ルネサンス後期を代表する
音楽家です。
カトリックの宗教曲を多く残し、
「教会音楽の父」とも呼ばれています。
100以上のミサ曲、
250以上のモテットを初めとする
数多くの教会音楽を作曲したのですが、
本盤収録の
「教皇マルチェルスのミサ曲」は
その代表作とされています。
ポリフォニー音楽は歌詞の聴き取りが
困難であるという理由で、
典礼におけるポリフォニー音楽を
規制しようとする教会に対し、
パレストリーナはこのミサ曲をもって
ポリフォニーと歌詞伝達の
両立を示したというエピソードが
知られています。
その逸話は疑わしいことが
確認されているのですが、それでも
この緻密に構成されたミサ曲は、
多声音楽と宗教性が
矛盾せずに融合することを
示していることは確かです。
その演奏ですが、驚異的な美しさです。
音盤を再生したその最初の一節だけで
魅了されてしまいます。
人間の声は
これだけの表現が可能であること、
人の声だけでこれだけ美しい
音楽空間・音響空間を
創り上げていることに
驚きを禁じ得ません。
全曲通して約70分。
その演奏のすべてが透明で澄み切った
声で満たされているのです。
煌めくような美しさです。
ルネサンス音楽のポリフォニー様式の
完成形ともいえる
音楽の構造上の美しさも
当然あるのですが、
それを完璧に再現しているのが、
このタリス・スコラーズなのです。
本盤はその最初期に
リリースされた演奏でありながら、
40年以上経った現在でも、
その鮮度はまったく失われていません。
さらに録音の素晴らしさが、感動を
より一層大きなものにしています。
ジャケットの記載では
「AAD」となっていました。
アナログ録音・アナログ編集、
つまりアナログ録音をそのまま
マスタリングして
CD原盤を作成したものであり、
CDの黎明期に多く見られたものです。
デジタル編集の際に変な加工を
施されることがなかったものであり、
ときどき驚くべき高音質のものに
出会うことがありますが、
本盤ももしかしたら
その類いかもしれません。
今年結成50年を迎える
タリス・スコラーズですが、
来月(2024年7月)には
約5年ぶりの来日公演が行われます。
そこでもアレグリの「ミゼレーレ」が
歌われるとのことでした。
観に行きたいのですが、
時間もお金もありません。
タリス・スコラーズの歴史的名盤である
この演奏を繰り返し聴くことで
満足せざるを得ません。
が、しかし、音盤は愉し、です。
(2024.6.30)
〔タリス・スコラーズの音盤〕
〔ルネサンス期のポリフォニー音楽〕
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