ラウズとイベールのフルート協奏曲
またしても
ジャケ買いしてしまいました。
触ると火傷しそうな
素敵なお姉さんです。
一見するとジャスのような
アルバム・ジャケット。
こうした風貌の
女性ジャズ・シンガーなら、
やるせない雰囲気のダミ声と
相場が決まっているのですが、
音盤を再生して流れてくるのは
清らかなフルートの音色です。
Katherine Bryan Plays
Flute Concertos by Rouse & Ibert
ラウズ:
フルート協奏曲
イベール:
フルート協奏曲
ドビュッシー:
シランクス
マルタン:
バラード
キャスリン・ブライアン(fl)
ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管
ヤク・ファン・ステーン(指揮)
録音:2012年
このお姉さん、キャスリン・ブライアン
(Katherine Bryan)は、
イギリスのフルート奏者です。
1982年生まれですから、
本盤収録時は30歳。
最も脂の乗っている年ごろです。
15才のときロンドンで
ダニエル・ハーディングとともに
コンサートデビュー。
21才のときに
ロイヤル・スコティッシュ管の
首席フルート奏者に就任するという、
なかなかに華々しい
経歴の持ち主なのでした。
1曲目のクリストファー・ラウズ
(1949-2019)は、
アメリカの作曲家であり、
主にレクイエム、協奏曲、交響曲などの
オーケストラ作品で知られています。
特に協奏曲については、
本盤収録のフルート協奏曲のほかに、
ヴァイオリン、トロンボーン、チェロ、
パーカッション、ピアノ、クラリネット、
ギターなど、12曲もの協奏曲を
書き上げているのですから驚きです。
このフルート協奏曲(全5楽章)ですが、
叙情的な旋律が数多く現れる、
馴染みやすい曲です。
現代音楽のような難解さは
一切ありません。
第1楽章冒頭からフルートが
静かに旋律を奏でるのですが、
これが得も言われぬ美しさです。
室内楽的な
静かな雰囲気で始まった曲は、
第2楽章で管弦楽が
不安をかき立てるような曲調へと
変化します。
第3楽章は途中からオーケストラが
豊かな自然を描写したかのような
メロディを展開し、
そこにさらにフルートが絡んできます。
第4楽章で再び音楽は
激しく動き出すのですが、
第5楽章では静かで美しいフルートの
旋律によって締めくくられます。
一楽章ごとに「美」と「乱」が
交互に現れる作風であり、
何を表現しているのか
気になるところです。
それはさておき、一通り聴き終えると、
一篇のドラマを見たかのような
充足感に浸ることができます。
この曲に出会えただけでも
大きな収穫です。
2曲目のイベールの作品は、
20世紀のフルート協奏曲の中で
最も知られたものといえるでしょう。
ラウズのそれとは異なり、
いかにも協奏曲らしい3楽章の形式の
作品です。
両端楽章の軽快で華やかな雰囲気は
愛らしい限りです。
そして第2楽章の詩情豊かな旋律。
実はこの作品を聴きたくて
CD棚を探したのですが、見当たらず
(この曲を収録したデュトワ指揮の
イベール管弦楽曲集を
所有していたはずなのに無かった!)、
この曲目当てで検索して
本盤に巡り会ったしだいです。
3曲目、ドビュッシーの「シランクス」は
無伴奏のフルート独奏作品です。
この曲については、録音の優秀さが
引き立つ結果となっています。
スピーカーからはフルートの音だけが
立ち現れてくるのです
(当たり前のことですが、
録音がまずいと
ごくわずかなノイズが入る)。
フルートの音の揺らぎや空気の震えが
生々しいまでに伝わってきます。
さすがはオーディオ機器専門メーカー、
LINNレーベルの音盤です。
ハイブリッドSACDなのですが、
私の再生機はSACDを再生できず、
CD層の音を聴いているのですが、
これがSACD層であれば
どれだけの音となっているのか。
音の優秀さはやはり大切です。
4曲目、マルタン(1890-1974)の
「バラード」は、はじめ
フルートとピアノのために作曲され、
後に管弦楽パートが付け加えられた
作品です。
こちらはかなり現代音楽的な
難解さなのですが、
ブライアンのフルートが最も
生き生きと歌っている曲でもあります。
素敵なのはお姉さんの写っている
ジャケット写真だけでは
ありませんでした。
素敵な作品、素敵なフルート奏者、
素敵な録音の音盤です。
やはり、音盤は愉し、です。
(2024.6.23)
〔キャスリン・ブライアンの音盤〕
〔イベール:フルート協奏曲の音盤〕
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