バッハ以前の聖トーマス教会のカントールの作品集

カントゥス・ケルンの静謐な響きを味わう

クラシック音楽、とりわけ古楽の場合、
それがどんな音楽か調べなければ
理解が難しいということが
よくあります。
本盤もそうした一枚です。
タイトルを見ても、
何が何やらわかりません。

DHM-BOX1

BOX1 Disc28
J.S.バッハ以前の
聖トーマス教会のカントールの作品集

DHM-BOX1 Disc28

クニュプファー:
 Ach Herr, strafe mich nicht
シェッレ:
 Das ist mir lieb
クーナウ:
 Gott, sei mir gnädig nach deiner Güte
シェッレ:
 Ach, mein herzliebes Jesulein
 Barmherzig und gnädig ist
  der Herr
クニュプファー:
 Es haben mir die Hoffärtigen
シェッレ:
 Aus der Tieffen rufe ich,
  Herr, zu dir
クーナウ:
 O heilige Zeit

コンラート・ユングヘーネル(指揮)
カントゥス・ケルン
録音:1992年

で、まずは聖トーマス教会ですが、
ドイツのライプツィヒ所在の
大変由緒のある教会です。
カントールとは、
キリスト教音楽の指導者、
つまり教会の音楽監督のことです。
特にこの聖トーマス教会の音楽監督は
トーマス・カントールと呼ばれ、
教会の合唱団や礼拝の音楽を
取り仕切るとともに、
その付属小学校の教職に当たったり、
さらにはライプツィヒ市全体の
音楽監督も兼ねるという、
大変多忙な公職だったようです。

この歴代のトーマス・カントールで
最も有名なのがJ.S.バッハです。
1722年に当時のカントールである
ヨーハン・クーナウが亡くなり、
一度はテレマン
後任に決まったのですが、
彼が辞退したことから
バッハが応募することとなりました。
その結果、1723年5月に
バッハのカントールへの就任が
決定したのです(在任期間は
1723-1750年の27年間にわたる)。
本盤はその大バッハ以前の
トーマス・カントール3名の作品を
取り上げた音盤なのです。

本盤収録一人目の
ゼバスティアン・クニュプファーは
1633年生まれ、1676年没の
ドイツの作曲家です。
大学で学びながら
当時のカントールであった
トービアス・ミヒャエルのもとで、
教会音楽のコンチェルティスト
(パートのトップ歌手、
バス歌手だった)として
合唱に加わっていました。
そのミヒャエルが亡くなり、1657年に
カントールに任命されています。
クニュプファーの教会音楽作品は
非常に高い評価を受け、
その作品は多くの写本によって、
ドイツ各地にもたらされています。

二人目、ヨハン・シェッレは
1648年生まれ、1701年没の
ドイツの作曲家です。
多くの音楽家たちを指導し、
200曲近くの作品を残しましたが、
現在確認できるのはその中の
48曲のみであり、
また存命中に出版されたのは
「Christus ist des Gesetzes Ende」の
ただ1曲のみです。
初期の教会カンタータの
原型を作ったことでも知られるなど、
バロック音楽史上の重要な活躍をした
作曲家です。
しかし作品に関しては
ほとんど知られていない作曲家であり、
本盤はその意味でも
貴重なものといえます。

三人目、ヨハン・クーナウは
1660年生まれ、1722年没の、
やはりドイツの作曲家です。
1684年から聖トーマス教会の
オルガニストを務め、さらに
1701年からはシェッレの後任として
トーマス・カントールの地位に就き、
1722年に逝去するまで
生涯にわたりその地位にありました。
作品としては鍵盤楽曲が
多く知られているのですが、
本盤収録のような声楽作品も
遺しています。

Knupfer Schelle Kuhnau

トーマス・カントールの
在任期間をまとめると、
以下のようになります。
クニュプファー(1657-1676)
シェッレ(1677-1701)
クーナウ(1701-1722)
J.S.バッハ(1723-1750)
大バッハ以後は
このようになっています。
ヨハン・フリードリヒ・ドーレス
 (1756ー89)
ヨハン・アダム・ヒラー(1789-1800)
ゴットフリート・ヴァイニング
 (1823-1842)

さて、こうしたある意味珍しい作曲家の
作品を集めた本盤ですが、
その音楽は秀作ぞろいです。
トーマス・カントールという
重責の中にあっての創作活動です。
並々ならぬ決意を持って
取り組んだものであろうことが
想像できます。
クニュプファーの作品は、
金管が伴奏の中に現れ、
劇的な要素を盛り込みながら、
全体としては調和の取れた
美しい作品として仕上がっています。
4曲収録されたシェッレの作品は、
もの悲しさを秘めた
美しい旋律が魅力的です。
クーナウの作品は
大バッハに繋がるような堅牢な構成を
聴き取ることができます。

今日のオススメ!

それらを際立たせているのが
カントゥス・ケルンの精緻な演奏です。
DHM-BOX収録で以前取り上げた
「バッハ:モテット集」や
「モンテヴェルディ:
聖母マリアの夕べの祈り」での
各パート一人による演奏は、
ここでも素敵な効果を発揮しています。
トーマス・カントールや作曲家が
どうのこうのというよりも、
このカントゥス・ケルンの静謐な響きを
堪能するのが、本盤の
正しい味わい方なのかもしれません。

今日のオススメ!

クニュプファー以前の
トーマス・カントールの音楽も
聴いてみたい、そして
カントゥス・ケルンの他の演奏も
聴いてみたい、
二つの欲求を引き起こす、
味わいに富んだ音盤です。
やはり、音盤は愉し、です。

(2024.5.12)

〔クニュプファーの音盤〕

Geistliche Konzerte
カンタータ集
Knupfer: Sacred Music

〔シェッレの音盤〕

Actus Musikus
Christmas Cantatas
Schelle: Sacred Music

〔クーナウの音盤〕

クーナウ:聖書ソナタ
宗教作品集全集 第1集
マニフィカート

〔カントゥス・ケルンの音盤〕

Diletti Pastorali
Rovetta: Vespro solenne
Bach Motets

〔関連記事:カントゥス・ケルン〕

falcoによるPixabayからの画像

【今日のさらにお薦め3作品】

【こんな音盤はいかがですか】

ジャニーヌ・ヤンセン
上野優子 リサイタル
ケイオス弦楽四重奏団
Our Favorites 東京六人組
ポーレ: ソナタと舞踏曲
プーランク青春時代の作品集
瀧廉太郎:荒城の月/秋の月/花
リース:交響曲第1番&第2番
ピットフィールド:歌曲集

コメントを残す