ファウストのバッハ「ヴァイオリン協奏曲集」を聴く

どれをとっても新時代のバッハ演奏

バッハのヴァイオリン協奏曲の音盤は、
もう買わなくてもいいのではないかと
思っていたものの一つです。
好きなヴァイオリニストの音盤を
集めているうち、この曲の盤も
自然に増えてしまったからです。
ムターハーンイブラギモヴァ
バティアシュヴィリ等々、
近年のものだけでも
かなりたまってしまいました。
でも、このファウスト盤の魅力には
抗えませんでした。

バッハ「ヴァイオリン協奏曲集」
イザベル・ファウスト

バッハ「ヴァイオリン協奏曲集」

Disc1
J.S.バッハ:
 vn協奏曲ニ短調 BWV.1052R
 カンタータ第174番 BWV.174より
  シンフォニア
 vn協奏曲ホ長調 BWV.1042
 カンタータ第21番 BWV.21より
  シンフォニア
 トリオ・ソナタ ハ長調 BWV.529
 ob,vn,弦と通奏低音のための
  協奏曲ハ短調 BWV.1060R

Disc2
J.S.バッハ:
 管弦楽組曲第2番 BWV.1067
  ~vnと弦楽合奏、通奏低音の
   編成による(イ短調で演奏)
 トリオ・ソナタ ニ短調 BWV.527
 vn協奏曲ト短調 BWV.1056R
 カンタータ第182番 BWV.182より
  第1曲:ソナタ
 vn協奏曲イ短調 BWV.1041
 シンフォニア BWV.1045
 2つのvnのための協奏曲ニ短調
  BWV.1043

イザベル・ファウスト(vn)
ベルンハルト・フォルク(vn)
クセニア・レフラー(ob、リコーダー)
ヤン・フライハイト(vc)
ラファエル・アルパーマン(cemb)
ベルリン古楽アカデミー
録音:2017-2018年

魅力の一つは上に記したように、
2枚組の盛りだくさんの内容です。
通常、バッハのヴァイオリン協奏曲の
音盤といえば、
BWV1041、BWV1042の二曲に加え、
複協奏曲のBWV1043あたりを加えて
編むのが一般的です。
CD時代となり、
その3曲でもまだ余白があるため、
そこにもう一つ付け加えられる
その曲に工夫を凝らしているものが
多いのです。
しかし本盤は2枚組、
バッハのヴァイオリン音楽の面白さを
すべて盛り込んだような構成です。

付け加えられている一つは、
ヴァイオリン協奏曲ニ短調
BWV.1052Rです。
現在チェンバロ協奏曲BWV.1052として
演奏されているものは、
消失したヴァイオリン協奏曲の
チェンバロ版編曲なのです。
また、ヴァイオリン協奏曲ト短調
BWV.1056Rも、
チェンバロ協奏曲ヘ短調BWV.1056の
初期稿にあたるものです。
これらが本盤ではヴァイオリン独奏版で
演奏されています。
こうした試みについては、
決して新しいものではなく、
いくつかすでに先行例があります
(イブラギモヴァはさらに踏み込んで
BWV1055も
ヴァイオリンで再構築している)。

オーボエ、ヴァイオリン、弦と
通奏低音のための協奏曲ハ短調
BWV.1060Rも
同じ趣向で再構成されています。
2台のチェンバロのための協奏曲
BWV.1060として演奏されているものは
消失した協奏曲の編曲で、
原曲はオーボエとヴァイオリンが
独奏を務める協奏曲なのです。
この再構成はハーン盤にも見られます。

面白いのは、
カンタータからの編曲が
盛り込まれていることです。
第174番BWV.174よりシンフォニア、
第21番BWV.21よりシンフォニア、
第182番BWV.182より第1曲:ソナタの
3曲です。
「歌」が聞こえてくる
素敵な曲となっています。
なお、シンフォニアBWV.1045も、
教会カンタータの導入楽章として
伝えられる曲であり、
独奏ヴァイオリンと弦楽合奏、
通奏低音のための協奏曲が
原曲だったと考えられている曲であり、
こちらも短いながらも
愉しめる一曲となっています。

2曲のトリオ・ソナタも
聴き応えがあります。
トリオ・ソナタハ長調BWV.529と
トリオ・ソナタBWV.527です。
前者は2つのヴァイオリンと通奏低音、
後者はヴァイオリンとオーボエと
通奏低音という構成です。
ヴァイオリン協奏曲よりも、
このトリオ・ソナタの方が、
ファウストの優雅なヴァイオリンの
音色をじっくりと愉しめます。

管弦楽組曲第2番BWV.1067の
フルート独奏部分を
ヴァイオリンに置き換えた版も
楽しく聴くことができます。
もともと独奏ヴァイオリンのための
協奏曲として考えられていた曲であり、
さらに調性もイ短調で
構想されていたと考えられ、
本盤ではそれに基づいて
再構成されているのです。

1685 J.S.Bach

もちろんファウストのヴァイオリンは
完璧な技巧に支えられた
瑞々しい音色で耳に迫ってきます。
聴き慣れたはずの
バッハ・ヴァイオリン協奏曲に、
新たな生命が吹き込まれたような
新鮮さが感じられるのです。
それでいて一通り聴き通すと、
ヴァイオリンだけが
印象に残るのではなく、
演奏全体が鮮明に
思い返されるのです。
これはファウストが自らのテクニックに
頼るのではなく、演奏の一部として、
バッハの音楽を創り上げようとした
成果なのではないかと思うのです。
多くのヴィルトゥオーソの
協奏曲演奏とは異なり、
技巧をひけらかそうとせず、
その音楽の持つ美しさを引き出し、
音楽に奉仕するという姿勢が鮮明です。

それを支えている
ベルリン古楽アカデミーの演奏も
秀逸です。
バッハ特有の鈍重さは一切存在せず、
草原を吹き渡る風のような軽やかさで
終始押し進めています。
ファウストのヴァイオリンのうまさと
絶妙に調和しています。
ファウストと楽団員が、
同じ方向を向いて、
一緒に愉しんでいるかのような演奏を
繰り広げているのです。

曲の構成の多様さ、
ヴァイオリン独奏の巧さと美しさ、
演奏の軽やかさ、
どれをとっても新時代のバッハ演奏と
いっていいでしょう。
もはや重苦しいバッハ演奏の時代は
過ぎ去りました。
バッハを聴くのは
こんなに楽しいことだったのかと、
改めて感じさせてくれる音盤です。
やはり、音盤は愉し、です。

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