ダンスタブル「モテット集」
先日取り上げた
ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの音盤
「ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの
歌曲&アンティフォナ&
初期ルネサンスのモテット」に、
一緒に作品が収録されていた
作曲家の一人が、
このジョン・ダンスタブルです。
このダンスタブルなる作曲家は、
いったいどんな音楽家だったのか?
ついつい興味が湧いてしまい、
本盤を購入した次第です。
ダンスタブル「モテット集」
ダンスタブル:
来たれ、主なる聖霊よ
救い主のうるわしき母
Credo super
Da guadiorum premia
アニュス・デイ
聖なる御姿に栄光あれ
ガウデ・ヴィルゴ・サルタータ
あなたは何者にもまして美しい
めでたし元后よ、あわれみ深き母
Preco preheminenciae
ヒリヤード・アンサンブル
録音:1984年
このジョン・ダンスタブル
(John Dunstable)は、
中世からルネサンス期に活躍した
イングランドの作曲家です。
1380年頃に生まれ、
1453年に没しました。
しかし、その生涯については
ほとんどわかっていない状態です。
生没年が示すとおり、
中世西洋音楽からルネサンス音楽の
移行期に生きた人物であり、
その音楽の変遷に重要な役割を
果たしたといわれています。
このダンスタブルが大陸に
イギリス独自の3度・6度の
和音を伝え、それが
フランスのアルス・ノヴァの音楽、
イタリアのトレチェント音楽の持つ
優美な旋律の作風と
統合されることによって、
ルネサンス音楽が始まったと
いわれているのです。
まさにルネサンス音楽の祖といえる
人物なのです。
ここで収録されている
「モテット」とは何か?
一般にはミサ曲を除く
教会で演奏されたポリフォニー音楽を
総称してそう呼ぶようです。
15世紀から16世紀にかけて、
ルネサンス様式のモテットが
多数作曲されましたが、
バッハ以降は教会音楽の必要性
そのものが薄れたため、
音楽におけるモテットの比重も
それに合わせて
小さくなっていきました。
昨日取り上げたバッハの「モテット集」
6曲がその最終形態であるならば、
このダンスタブルのモテット集は、
最初期の姿といえるでしょう。
伴奏なしの声楽のみのポリフォニー。
グレゴリオ聖歌よりも音楽性に富み、
透明な美しさに満ちています。
伴奏付きのバッハのモテットよりも、
ある意味、神秘性が漂っています。
面白いのはこのダンスタブル、
作曲家だけではなく、
数学者、天文学者、占星術師としても
活躍した形跡があるということです。
現代的な感覚でいえば、
人気作曲家でありながらも、
経済学に強く、
理系大学で教鞭を執り、
占いも当たるという
マルチ職業人なのです。
以前取り上げた
ヒルデガルト・フォン・ビンゲンもまた
多彩な才能に恵まれた作曲家でしたが、
それを彷彿とさせます。
ここにも音楽史の謎が潜んでいて、
聴く楽しみが増えます。
果たしてダンスタブルとは
どのような人物だったのか。
そしてダンスタブルの遺した音楽は
いったいどれだけあるのか。
現在知られている50数曲以外にも
存在する可能性があるのです。
そしてこのダンスタブルの
「モテット集」から、
バッハの「モテット集」の間には、
まだまだいくつもの
モテットの形があるのです。
古楽とりわけルネサンス期の音楽には、
まだまだ溢れるだけの魅力が
凝縮されています。
やはり、音盤は愉し、です。
〔ダンスタブルの音盤〕
残念ながらダンスタブルの音盤は、
数えるだけしか存在しないようです。
貴重な音盤です。
じっくりと味わいましょう。
(2023.6.25)
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