ドイツ・バロック音楽の違った一面
やはりBOXは
新しい音楽との出会いの宝庫です。
DHM-BOX第1集第2集計100枚。
古楽そのものが
私にとっては目新しいものでしたが、
特にこの一枚、
ブロックフレーテ協奏曲集なる音盤は、
新鮮味に溢れていました。
そもそもブロックフレーテとは何?
なんとリコーダー。
中学校で学習した「笛」です。
それがクラシック音楽の
独奏楽器としての位置づけが
与えられていたなんて!
BOX2 Disc47
ドイツ・バロック・
ブロックフレーテ協奏曲集
テレマン:
アルトブロックフレーテ協奏曲ト短調
(ハラッハ伯爵家コレクション)
アルトブロックフレーテ協奏曲
ハ長調TWV.51:C
グラウプナー:
組曲(序曲)へ長調
シュルツ:
ブロックフレーテ協奏曲ト長調
ドロテー・オーバーリンガー(Bfl)
ラインハルト・ゲーベル(指揮)
アンサンブル1700
録音:2008年
厳密にはブロックフレーテと
リコーダーは異なる楽器です。
ブロックフレーテは一六世紀ごろの
縦吹きの木管楽器の一種であり、
バロック期には協奏曲や室内楽曲に
用いられたのですが、
フルートの登場で
後退してしまいました。
ところが20世紀になって
学校用教育楽器として復活、
それがリコーダーだったのです。
このブロックフレーテの奏者
ドロテー・オベルリンガーは、
ジャケットやネット上の写真で見る限り
知的で冷徹な視線の女性です。
迂闊に近寄れば、
ビシッと肘鉄を食らわせられそうな
雰囲気なのですが、
奏でるブロックフルーテの音色は
温かみに溢れています。
もちろん、その演奏は
彼女の醸し出す雰囲気通り、
知的で緻密な技巧の冴えが見られ、
この録音がクラシック音楽の演奏として
きわめて優秀なものであることが
即座に理解できます。
彼女は1969年生まれ。
これまで数多くの賞を受賞した
経歴があります。
1997年メック国際コンクールなるもので
1位入賞後、
ロンドン・ウィグモアホールでデビュー、
ソロ活動および室内楽活動を
展開します。
2001年にはリコーダーでははじめて
ノルトラインヴェストファーレン州
芸術家奨励賞(かなり格式のある
賞らしい)を受賞しています。
ロンドン・バロックや
ムジカ・アンティクァ・ケルンの
メンバー、
その他5団体ものリコーダー奏者を
務めたということです。
さらにケルン音楽大学の教授を経て、
ザルツブルク・モーツァルテウムの
教授も務めるなど、
かなり偉い先生でもあったのです。
素敵な楽器・
ブロックフレーテとの出会い、
素敵な演奏家・
ドロテー・オーバーリンガーとの出会い
だけではありません。
ブロックフレーテ協奏曲であるためか、
作曲家もまたこれまで
お目にかかったことのない面々です。
テレマンはともかくとして、
クリストフ・グラウプナー
(Christoph Graupner)も
初めて出会う作曲家でした。
1683年生まれ、テレマンの2つ年下、
ラモーと同じ歳、
大バッハの二つ年上です。
チェンバロ奏者として
活躍した人物でした。
グラウプナーは勤勉であったらしく
作曲家としては多作であり、
約2000曲が現存しています。
シンフォニア113曲、管弦楽曲80曲、
協奏曲44曲(この中に、本番収録の
ブロックフレーテ協奏曲がある)、
ソナタ36、オペラ8、鍵盤楽曲40、
世俗カンタータ24、
教会カンタータ1418が
残されているというのですから驚きです
(その割に有名でないのはなぜ?)。
もう一人の
ヨハン・クリストフ・シュルツは
さらに貴重です。
販売元のHP情報では
「シュッツ」の表記であったため、
「ハインリヒ」(1585-1672)だとばかり
思っていたのですが、
こちらは1733年生まれ。
まったく別人でした。
表記としては「シュルツ」の方が
正しいようです。
このシュルツは指揮者として
活躍した形跡があり、
1768年にデベリンシェ劇場の
カペルマイスター
(兼第一ヴァイオリン奏者)を
務めたとのことでした。
彼が活躍していた頃にはすでに
ブロックフレーテは
時代遅れとなった楽器だったようです。
そのため、ブロックフレーテのための
楽曲を書いた最後の作曲家の
一人だったと考えられます。
一通り聴き通すと、
ブロックフレーテの音色の
すがすがしさに
心を奪われる思いがします。
古楽器団体であるアンサンブル1700の
素朴で簡素な響きの中で
オーバーリンガーの超絶的な技巧の
ブロックフレーテが
爽やかに駆け抜けていきます。
その爽快な味わいは、
何度でも愉しみたくなる
豊穣さを兼ね備えています。
特に作曲家3人の中では、
グラウプナーの作品がもっとも
ブロックフレーテの特色が生かされ、
その音色が艶やかに聴こえてきます。
ついつい繰り返して聴いてしまいます。
ただし、やはりブロックフレーテは
聴感上、どうしても伴奏に
負けているように感じられます。
フルートに取って代わられたのが
わかるような気がします。
このオーバーリンガーには、
ブロックフレーテ協奏曲集だけでなく、
室内楽作品集も録音されていますので、
そちらに手を伸ばしてみたいと
思います。
いずれにしても、
ブロックフレーテなる楽器の魅力を
最大限に引き出して聴き手の前に
提示している魅力ある音盤です。
魅力ある楽器、素敵な作曲家、
素晴らしい演奏家に
出会うことができました。
やはり、音盤は愉し、です。
〔オーバーリンガーの音盤〕
このように、
次々と音盤が登場しています。
オーバーリンガーから
目が(耳が)離せません。
(2023.6.17)
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