聴きどころはもちろん「オン・ブラ・マイ・フ」
ヘンデルのオペラの音盤も
CD棚にいくつか並ぶようになりました。
それらの中では
最も早い時期に購入したのが本盤です。
お目当ては何だったか?
もちろん有名な
アリア「オン・ブラ・マイ・フ」です。
第1幕、序曲が終わり、
1つめのレチタティーボに続いて
早々と登場する
アリア「オン・ブラ・マイ・フ」を、
何度繰り返して聴いたでしょう。
レコードであったら
擦り切れていたはずです。
ヘンデル:歌劇「セルセ」(全曲)
ヘンデル:
歌劇「セルセ」(全曲)
アンネ・ゾフィー・フォン・オッター
(Ms)(セルセ)
エリーザベト・ノルベルグ=シュルツ
(S)(ロミルダ)
サンドリーヌ・ピオー
(S)(アタランタ)
ローレンス・ザッゾ
(C-T)(アルサメーネ)
シルヴィア・トロ・サンタフェ
(Ms)(アマストレ)
ジョヴァンニ・フルラネット
(Br)(アリオダーテ)
アントニオ・アベーテ
(Bs)(エルヴィーロ)
レザール・フロリサン
ウィリアム・クリスティ(指揮)
録音:2003年
〔登場人物〕
セルセ…ペルシアの王。
アルサメーネ…セルセの弟。
エルヴィーロ…アルサメネの従者。
アリオダーテ…ペルシアの将軍。
ロミルダ…アリオダテの娘。
アタランタ…ロミルダの妹。
アマストレ…セルセの婚約者。
〔あらすじ〕
第1幕
セルセ王が見初めたロミルダは、
弟・アルサメーネの恋人だった。
彼は弟を追放し、
ロミルダと結婚しようとする。
傷心のアルサメーネは
ロミルダへの手紙を書き、
従者エルヴィーロにことづける。
ところがセルセには
アマストレという婚約者があった。
アマストレは男装してセルセに接近し、
仕返しをしようとする。
第2幕
エルヴィーロの持つ例の手紙を、
アルサメーネに横恋慕している
アタランタが奪う。
アタランタはこの手紙を
自分あてのものといつわって
セルセに渡し、
自分とアルサメーネ、
セルセとロミルダが結ばれるように
画策する。
アマストレは自殺しようとするが、
エルヴィーロに助けられる。
第3幕
セルセはアリオダーテ将軍に
「ロミルダが王家の人間と結婚する」
許可を打診する。
娘の結婚相手をアルサメーネだと
思いこんでいる将軍は喜んで認め、
アルサメーネとロミルダの二人を
すぐさま結婚させる。
男装していたアマストレが
自分の正体をあかし、セルセを諫める。
セルセは改心し、
アルサメーネとロミルダの結婚を
祝福する。
この作品、
ヘンデルのオペラ作品の中では、
やや毛色が違います。
オペラ・セリア(シリアスな内容の
オペラ)であるにもかかわらず
コミカルな一面を持っているのです。
アマストレは自殺しようとするし、
セルセは自分の弟・アルサメーネを
殺害しようとさえするのです。
一歩間違えば
「トリスタンとイゾルテ」なみの
大悲劇となったところですが、
最終的にはコミカルに
筋書がまとまっていくのです。
聴きどころはもちろん、
「オン・ブラ・マイ・フ」をはじめとする
アリアの数々です。
第一幕ではセルセの歌う
「Più che penso alle fiamme」
でしょうか。
セルセとアマストレの
レチタティーボから続くアリアであり、
アマストレそっちのけで
ロミルダへの愛を切々と歌い上げる
情熱的な王の姿が目に浮かびます。
第二幕でもやはりセルセの
「Se brameate d’amar,
chi vi sdegna」が秀逸です。
直前のセルセとロミルダの
短いデュエットからのつながりとして
味わうべき場面でしょう。
第三幕では、三場の
「Per rendermi beato」も
捨てがたいのですが、
それ以上に十一場の
「Crude Furie degl’orridi abissi」が
最大の味わいどころとなるでしょう。
これらはすべてセルセのアリアであり、
アンネ・ゾフィー・フォン・オッターが
素晴らしい歌唱を聴かせているのです。
演奏のレザール・フロリサンは
古楽器のアンサンブル団体であり、
軽快な音楽で盛り上げています。
ヘンデルの「セルセ」は
これ一組あれば十分なのではないかと
思われるような出来映えです。
例によって輸入盤を購入したため、
歌詞対訳もなく、
細かい筋書きはわからないのですが、
粗筋を理解した上で歌を聴き取れば、
十分に愉しむことができます。
オペラは筋書きよりも
歌が大切なのです。
本盤は、歌を愉しめる音盤なのです。
やはり、音盤は愉し、です。
〔「オン・ブラ・マイ・フ」について〕
若い方はわからないでしょうが、
私はこの曲のCMが
印象深く心に残っています。
昭和60年代だったでしょうか、
ニッカウヰスキーのCMに
この曲が使用され、
話題になったはずです。
曲の美しさもさることながら、
実相寺昭雄監督による映像、
そして歌っていた
キャスリーン・バトルの神々しい姿、
それらが一つとなって
記憶されています。
クラシック音楽などそれまで
まともに聴いてこなかった私にさえ、
その素晴らしさが
十分に理解できました。
その映像がないかと思って
YouTubeを探したのですが、
見つかりません。
でも、キャスリーン・バトルによる
オン・ブラ・マイ・フの
映像はありました。
〔「セルセ」の音盤について〕
本盤は2003年の録音ですが、近年、
いくつか新録音が登場しています。
機会があれば
聴いてみたいと思っています。
映像作品も登場しています。
こちらは舞台を
現代に移したものらしく、
イメージが大きく異なるようです。
YouTubeにプロモーション用映像が
公開されています。
ヘンデルのオペラ作品が
これまで以上に注目されることを
期待しています。
(2023.5.21)
【関連記事:ヘンデル作品】
【今日のさらにお薦め3作品】
【こんな音盤はいかがですか】