隠れた名盤シノーポリの「ドイツ・レクイエム」
モーツァルトのレクイエムも
好きですが、このブラームスの
ドイツ・レクイエムも大好きです。
かつては「ドイツ鎮魂曲」などと
大げさな邦訳がなされていたためか、
重々しい演奏が多かったのですが、
近年はすっきりした見通しのよいものが
多くなってきました。
その先駆けとなったのが、
3枚組の本盤かも知れません。
ブラームス
管弦楽伴奏付き合唱作品集

ブラームス:
ドイツ・レクイエム op.45
運命の女神たちの歌 op.89
アルト・ラプソディ op.53
悲歌 op.82
運命の歌 op.54
リナルド op.50
勝利の歌 op.55
ルチア・ポップ(S) op.45
ブリギッテ・ファスベンダー op.53
ルネ・コロ(T) op.50
ヴォルフガング・ブレンデル(Br)
op.45,55
ジュゼッペ・シノーポリ(指揮)
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
プラハ・フィルハーモニー合唱団
録音:1982年
シノーポリというと、一連の
マーラー交響曲録音に見られるような
粘着質の癖の強い演奏という
イメージが強く、
「ドイツ・レクイエム」とは決して
相性が良さそうには思えません。
そもそもブラームスの交響曲は
一曲も録音していないのですから、
「なぜこの曲を?」という疑問を
ついつい持ってしまうのです。
しかし演奏は「素晴らしい」の一言です。
過度な感情移入を排したような、
もしくはブラームスと
少し距離を置いたような、
冷静な視線でスコアを
隅から隅まで見通した演奏です。
それが明解な解釈となって、
一つ一つの音が美しく響き渡るのです。
ただし、アナログ時代の演奏を
好む方にとっては、
この演奏は「表面的」と捉えられるかも
知れません。
さらに、シノーポリにとっては
珍しいチェコ・フィルとの録音です。
シノーポリの音盤に、
このオケとの録音は、
他にはないように記憶しています。
どういう縁で
チェコ・フィルとの録音なのか?
いや、チェコ・フィルの
ブラームスだってあまりないはずです。
「なぜこのオケで?」という疑問も
やはり沸き起こるのです。
しかし、
やはり演奏は素晴らしいのです。
ドヴォルザークやスメタナを
演奏させるとあれだけ民族臭が
立ちこめるチェコ・フィルですが、
このブラームス録音については
一切それがありません。
しかもなぜかハープの音色が
明瞭に聴き取ることができ、
天国的な美しさを演出しています。
シノーポリの指揮棒がすべてを
コントロールしているのでしょう。
精緻な美しさが際立っています。
さらに独唱者二人も
素晴らしい出来映えで、
見事な歌唱を聴かせてくれます。
録音もこの繊細な
音の構造物のような演奏を、
完璧に捉えきっています。
シノーポリ、ブラームス、
チェコ・フィルという、
異質の組み合わせが、
奇跡のような名演奏名録音を
生み出しているのです。

1982年の録音であり、それ以降、
もっと刺激的な録音も登場しています。
しかし、本盤の価値は
いささかも減じていません。
しかも本盤は、
「リナルド」をはじめとする珍しい作品も
収録されている3枚組です。
非常に価値の高い音盤セットだと
感じています。
私はこのシノーポリ盤を
「名盤」と位置づけているのですが、
当時は輸入盤のみで
国内盤はリリースされなかったと
記憶しています。
その輸入盤も、
残念なことにかなり早い時期に
廃盤となってしまいました。
2017年に一度、
国内盤が発売されましたが、
それもすぐ完売、廃盤となっています。
シノーポリ自身も早逝したため、
このあと陽の目を見ることが
あるかどうか…。
いや、多くの人が気づいていない
「名盤」を所有している喜びに、
一人で存分に浸りましょう。
やはり、音盤は愉し、です。
〔本盤の構成について〕
本盤には一つだけ難点があります。
「ドイツ・レクイエム」が
一枚に収録できるはずなのに、
なぜか第1楽章から第6楽章までがCD1、
第7楽章だけがCD2の冒頭と、
分割されてしまっているのです。
実は「ドイツ・レクイエム」だけ1枚で
収録されている廉価版を
わざわざ購入し、
このプラケースに入れ、
4枚組として保管しています。
2017年に日本で再発売された折には、
この点が改善され、
「ドイツ・レクイエム」は
1枚に収録されています。
(2023.5.5)
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