モーツァルトになり損ねた男・ミスリヴェチェク

ミスリヴェチェクのヴァイオリン協奏曲全集

正直に言います。
Amazonで安かったから購入しました。
2枚組で1115円。
初めて聞く作曲家。
ヴァイオリン協奏曲全集。
ソロは日本人演奏家。
となれば、買わない手はないだろうと。
失敗してもこの値段なら。
で、買って聴いてみました。
失敗どころか大成功でした。
こんな素敵な作曲家が
隠れていたなんて。
こんな素敵な
日本人女性ヴァイオリニストが
いたなんて。

ミスリヴェチェク:
ヴァイオリン協奏曲全集

今日のオススメ!音盤

ミスリヴェチェク:
 ヴァイオリン協奏曲
Disc1
 ハ長調
 ホ長調
 ヘ長調
 イ長調
 イ長調
Disc2
 ニ長調
 変ロ長調
 ト長調「田園」
 ニ長調

石川静(vn)
ドヴォルザーク室内管弦楽団
リボル・ペシェク(指揮)
録音:1983年

聴いてみてびっくり。
まるでモーツァルトです。
軽やかな旋律、
ヴァイオリンの生かし方、
リズム感、そのすべてが
モーツァルトを彷彿とさせるのです。
もしやモーツァルトをパクったか?
と思って調べてみると、
このミスリヴェチェク
生まれは1737年であり、
モーツァルト(1756)より
20年近く先輩です。
ヴァイオリン協奏曲については、
ミスリヴェチェクがこれらを
完成させたのが1769~1772年頃、
モーツァルトは第1番が1773年、
最後の第5番も1775年なのです。
つまり、ミスリヴェチェクは
どこからどう見ても
モーツァルトの先達なのです。

調べてみてみてびっくり。
現在、モーツァルト特有のリズムと
考えられる数々の音楽語法は、
そのほとんどがミスリヴェチェクの
発案によるものなのだそうです。
パクリどころか、
モーツァルトの先駆けだったのです。

Myslivecek 1737

さらに調べてみると、
ミスリヴェチェク、
モーツァルト同様の多作家であり、
ヴァイオリン協奏曲にとどまらず、
宗教曲、オラトリオ、カンタータ、
オペラ、交響曲(シンフォニア)、
弦楽四重奏曲をはじめとする室内楽曲、
ピアノ曲など、
いくつもの作品を残していたのです。
モーツァルトとも親交があり、
若きモーツァルトは、
しばしば私信の中で
ミスリヴェチェクについて称賛の念を
送り続けたというのですから、
なお驚きです。

ヴァイオリン協奏曲を聴く限り、
決してモーツァルトのそれに比して
劣っているとは思われません。
しかしモーツァルトの名声に比べて、
ミスリヴェチェクの名前は
ほとんど埋もれたままになっているのは
どうしたことか?

考えるに、一つは
チェコ出身ということかも知れません。
ミスリヴェチェクは出身地を離れ、
イタリアで活動したのですが、
当時は異邦人として大きな評価を
得られなかった可能性があります。
さらにチェコ出身でありながら、
その旋律は洗練され、民族的土着的な
(例えば後年のスメタナや
ドヴォルザークのような)匂いは
まったく感じられないため、
彼の活動時期以後は
まったく無視されたと推察できます。

これだけの作品を創り上げながら、
モーツァルトのような
名声を得るどころか、
晩年はローマで貧困の末に、
梅毒により他界しています
(没年1781年)。
いうなればミスリヴェチェクは、
モーツァルトになり損ねた男なのです。

本盤もまた、1983年という
クラシック音楽のデジタル録音黎明期に
制作された割には、
話題になることなく忘れ去られ、
なぜか突然再発売が決定した、
不思議な録音です。

ヴァイオリニストの石川静も、
1970年代に活躍していたのですが、
その後はあまり話題になることは
ありませんでした。
プラハ在住であり、本盤同様に、
チェコの作曲家の作品を中心に、
いくつか録音を残しています。

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本盤が約30年以上の時間をおいて
再発売に至った経緯はわかりませんが、
大きな意義があることは確かです。
ミスリヴェチェクの再発見、
そして日本人ヴァイオリニスト・
石川静の再評価につながることを
期待します。

(20223.4.16)

〔ミスリヴェチェクの音盤はいかが〕

〔石川静の音盤はいかが〕

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AnjaによるPixabayからの画像

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