アン=ルイーズ・ブリヨン・ド・ジュイ

これは女性版モーツァルト!?

「Grand Piano」レーベルの
「女性作曲家の3世紀」(10枚組)。
300年にわたる音楽史の中から
女性作曲家のピアノ曲を集めたという
素敵な企画BOXです。
先日はそのCD5に収録されている
マリア・シマノフスカを取り上げ、
「ショパンの先輩女子」と書きました。
今日はCD1&2の
アン=ルイーズ・ブリヨン・ド・ジュイ
こちらは
「女性版モーツァルト」でしょうか。

「女性作曲家の3世紀」

アン=ルイーズ・ブリヨン・ド・ジュイ
「見出されたピアノ・ソナタ集」

Anne Louise Brillon de Jouy

CD1
アン=ルイーズ・ブリヨン・ド・ジュイ:
 ソナット(ソナタ)イ短調
 ピアノのための
  ソナタ・コレクション第3集
   ソナタ第1番 ハ短調
   ソナタ第2番 変ロ長調
   ソナタ第3番 ハ長調
   ソナタ第4番 ト短調
   ソナタ第5番 変ホ長調

CD2
   ソナタ第6番 ニ短調
   ソナタ第7番 変ロ長調
   ソナタ第8番 イ短調
   ソナタ第9番 ヘ短調
   ソナタ第10番 ト短調
   ソナタ第11番 ニ短調
   ソナタ第12番 ハ短調

ニコラス・ホルヴァート(p)
録音:2020年

この
アン=ルイーズ・ブリヨン・ド・ジュイ、
1744年生まれのフランスの女性です。
没年は1824年であり、
80歳の高齢まで生きたようです。
別の資料をあたると、
正式な名前はもっと長く、
「アン=ルイーズ・ボイヴァン・
ダドンクール・ブリヨン・ド・ジュイ」
なんだとか。
同じ世代にはボッケリーニ(1743)や
C.シュターミッツ(1745)がいます。
モーツァルト(1756)の一回り先輩です。

良家に生まれ育ち、
高い知性を持っていた彼女は、
鍵盤楽器演奏に秀でた力を発揮し、
当時新しい楽器であった
フォルテピアノを
弾きこなしていました。
やはり名家であるブリヨン家に嫁ぎ、
幸せな家庭を築いたようです。
ブリヨン家も絵画や音楽を愛する、
文化の薫り高い家柄だったようで、
彼女は二人の娘にも音楽、
特に歌の指導を徹底させました。
やがて彼女はサロンを開き、
そこに当時の音楽家たちが
集うことになります。
ヴァイオリンの
ジャン=ピエール・パギンや
チェロのルイジ・ボッケリーニの顔も
そこにありました。

Anne Louise Brillon de Jouy

ブリヨン夫人はチェンバロ奏者として、
音楽家をもてなし、
伴奏者としても活躍しました。
彼女はきわめて現代的な感覚を
持っていたのでしょう、
サロン用に当時としては珍しかった
フォルテピアノをいち早く購入し、
当時の最先端の音楽を、
仲間とともに研究していたのです。

フォルテピアノ奏者としての
才能に加え、
ブリヨン夫人は作曲家としても
活躍しています。
彼女の作品は90曲近くあり、
そのほとんどが室内楽です。
鍵盤楽器のための作品だけでなく、
チェロ、ヴァイオリン、
ハープのためのソナタ、トリオ、
そしておそらくは二人の娘に
演奏することを想定したような
声楽曲も作曲しています。

彼女の音楽は、プライベートな場、
特に彼女自身のサロンで
演奏されたに過ぎません。
彼女の作品は、生前は
一曲も出版されなかったようです。
当時、女性が
自分の音楽を公にすることは、
まだまだ認められては
いなかったようです
作曲や演奏は、私的な領域に
留めざるを得なかったのでしょう。

本番に収録されているのは、
1760-70年頃に作曲された
「イ短調ソナタ」と、
同じ頃に作曲された
12曲のソナタからなる
「ピアノのための
ソナタ・コレクション第3集」です。
16歳から26歳頃の作品であり、
若いうちから才能を
開花させていたことをうかがわせます。
曲の雰囲気としてはまさしく
「女性版モーツァルト」。
モーツァルトの軽やかさを
抑え気味にして落ち着きを
与えたようなピアノ・ソナタです。

ピアノのニコラス・ホルヴァートも、
これらの作品の
繊細で気品のある味わいを
見事に生かした演奏を披露しています。
写真を見る限り、
かなり骨太の男性なのですが、
力強さだけでなく
緻密な表現力を感じさせます。

素晴らしい作品でありながら、
女性ということで
楽譜が出版されなかったケースは
ほかにもあるのでしょう。
そうした作品を発掘して
音盤化したこの企画は
大きな意義と価値があります。
素敵な作曲家と作品に、
また出会うことができました。
やはり、音盤は愉し、です。

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(2023.3.26)

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