このスペクタクルはワーグナー以上!
先日、ヘンデルのオペラとして
「ジューリオ・チェーザレ」を
取り上げました。
同じくらい演奏される曲が
この「リナルド」でしょう。
10年くらい前に
中古で購入していたのですが、
当時はこのオペラの良さが分からず、
1、2回聴いただけで棚の奥に
追いやってしまっていました。
もったいないことをしていました。
ヘンデル:歌劇「リナルド」(全曲)
ヘンデル:歌劇「リナルド」(全曲)
ゴッフレード:ベルナルダ・フィンク
リナルド:デイヴィッド・ダニエルス
アルミレーナ:チェチ-リア・バルトリ
エウスタツィオ:ダニエル・テイラー
アルガンテ:ジェラルド・フィンリー
アルミ―ダ:リューバ・オルゴナソバ
エンシェント室内管弦楽団
クリストファー・ホグウッド(指揮)
録音:1999年
ヘンデルには
作品番号HWV.1~42を付された
42曲のオペラがあります。
そのうち、本曲と
「オルランド」「アルチーナ」
「テゼオ」「アマディージ」の5曲が
「魔法オペラ」と称される、
スペクタクル感満載のオペラなのです。
この「リナルド」の原作は、
ルネサンス・イタリア文学を代表する
トルクアート・タッソの
「解放されたエルサレム」という
作品です。
イスラム教徒の占領下にあった
聖地エルサレムを奪回して
ヨーロッパを熱狂させた
「第一次十字軍」に基づいた、
幻想的な一大叙事詩といわれています。
第一次十字軍の
総司令官がゴッフレート。
その部下の勇敢な戦士が
主人公・リナルド。
リナルドはゴッフレートの娘・
アルミレーナと愛し合っている。
戦争の相手はエルサレム。
その王・アルガンテ、
そしてその恋人で魔法使いの
アルミーダが、戦況打開のために
アルミレーナを誘拐する。
リナルドとその弟・エウスタツィオが
アルミレーナ救出に向かう。
ところがリナルドは
アルミーダの罠にかかる。
ゴッフレートとエウスタツィオが
二人を救出、
総攻撃を命じられたリナルドが
見事エルサレムを陥落させ、
アルミレーナと結ばれる。
大まかな筋書きは
そんなところでしょうか。
雷鳴がとどろく、
天空から龍が現れる、
怪物たちが襲いかかる、
アルミーダはアルミレーナに変身して
リナルドを誘惑する、
ゴッフレートとエウスタツィオは
険しい岩山を登る、
そして十字軍とエルサレム軍の
全面衝突、
このスペクタクルは
後年のワーグナー以上です。
舞台はさぞかし
面白いだろうと思うのですが、
かつてNHK-BSで録画した同曲は、
舞台を学園紛争に置き換え、
スケールを矮小化した
とんでもないものでした。
まあ、限られた予算で
これを再現しようとして
ハリボテの龍など出されるよりも
まだましなのかもしれません。
だとすれば映像を観るよりは、
素敵な演奏を聴きながら、
自分の脳内にそのスペクタクルを
再現すればいいのです。
そして愉しむべきは当然「歌」です。
歌詞が分からず
(ブックレットの英文を読めない)、
したがって細かな筋書きも
理解できないのですが、
歌を愉しめればいいのです。
「リナルド」には
28曲のアリアが配置され、
聴きどころが多いのが
嬉しいところです。
私はどうしても
女声の方に耳がいってしまい、
公平な聴き方ができないのですが、
やはりアルミレーナに
第2幕で与えられた名曲
「私を泣かせてください」
(Lascia ch’io pianga)が
最大の聴きどころでしょう。
チェチーリア・バルトリが
素敵な歌声を聴かせてくれます。
この頃のバルトリは
もっとも脂ののっていた
時期ではなかったでしょうか。
そしてアルミーダの4曲が
なかなかに味わい深い旋律が
含まれている名曲なのです。
魔女の姿の美女が
この4曲を歌っている姿を想像するのは
愉しいものがあります。
リューバ・オルゴナソバが
難しい役どころを
頑張ってこなしています。
エンシェント室内管の演奏の
現代的な響きが、
この曲のスペクタクル感を
盛り上げています。
ホグウッドの指揮も推進力があります。
録音も秀逸で、クリアな音響が
聴く楽しみを倍加しています。
ところどころに挿入される効果音は、
もしかしたら気になる方も
いらっしゃるかと思うのですが、
それもオペラの一部と
考えた方がいいと思います。
総じて完成度の高い音盤であり、
価値は高いと思います。
「リナルド」が今後数年のうちに
10も20も音盤が登場する、
という状況は考えられない以上、
本盤が名盤として
今後も位置づけられ続けるのは
間違いないでしょう。
こうなると、残りの魔法オペラも
聴きたくなってきます。
次から次へと興味は広がっていきます。
やはり、音盤は愉し、です。
〔関連記事:ヘンデル・オペラ〕
(2023.1.29)
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