録音芸術の一つの頂点、圧倒的な存在感
最近は室内楽や古楽中心で、
オーケストラ作品をほとんど
聴かなくなってしまいましたが、
年末年始ぐらいは
派手にいきたいものです。
となるとオペラ、
となるとワーグナー、
となると「リング」となるわけです。
近年は素敵な映像版も
Blu-rayで登場しているのですが、
CDとなるとこの一組でしょうか。
圧倒的な存在感の名盤です。
「ニーベルングの指環」全曲
ショルティ&ウィーン・フィル

ワーグナー:楽劇「ラインの黄金」

ジョージ・ロンドン(ヴォータン)
キルステン・フラグスタート(フリッカ)
クレア・ワトソン(フライア)
ヴァルデマール・クメント(フロー)
エバーハルト・ヴェヒター(ドンナー)
セット・スヴァンホルム(ローゲ)
パウル・クーエン(ミーメ)
ジーン・マデイラ(エルダ)
グスタフ・ナイトリンガー(アルベリヒ)
ヴァルター・クレッペル(ファゾルト)
クルト・ベーメ(ファフナー)
オーダ・バルスボーグ(ヴォークリンデ)
ヘティ・プリマッハー(ヴェルグンデ)
イラ・マラニウク(フロースヒルデ)
ウィーン国立歌劇場合唱団
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ゲオルク・ショルティ(指揮)
録音:1958年
「リング」には現在、
素敵な盤がいくつもあります。
私の所有している盤の中でも、
音の美しさを追求するという
視点に立てば
カラヤン盤に軍配が上がるし、
バイロイトの生々しい雰囲気を
伝えきっているのは
ベーム盤と考えられます。
音が貧しいのが気になる
フルトヴェングラー盤も
歌手を聴く分には最高ですし、
逆に歌手陣にやや弱さを感じる
バレンボイム盤は
音がしっかりとしていて
聴きやすく仕上がっています。
映像収録も、1990年の
レヴァイン盤(DVD)は
奇をてらわない
ストレートな表現が魅力的であり、
2010~2012年の
レヴァイン&ルイージ盤は、
最新の映像技術が
目を楽しませてくれます。
その中において本盤は、
登場以来半世紀以上にわたって
独特の立ち位置と
最高の輝きを保ち続けています。
ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」

ジェームズ・キング(ジークムント)
レジーヌ・クレスパン(ジークリンデ)
ゴットロープ・フリック(フンディング)
ハンス・ホッター(ヴォータン)
ビルギット・ニルソン(ブリュンヒルデ)
クリスタ・ルートヴィヒ(フリッカ)
ブリギッテ・ファスベンダー
(ヴァルトラウテ)
ベリット・リンドホルム
(ヘルムヴィーゲ)
ヘルガ・デルネッシュ(オルトリンデ)
ヴェラ・シュロッサー(ゲルヒルデ)
ヘレン・ワッツ(シュヴェルトライテ)
ヴェラ・リッテ(ジークルーネ)
クラウディア・ヘルマン(ロスヴァイゼ)
マリリン・タイラー(グリムゲルデ)
ウィーン国立歌劇場合唱団
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ゲオルク・ショルティ(指揮)
録音:1962年
本盤の魅力は
言うまでもなく歌手陣の豪華さです。
50年代から60年代のワーグナー歌手が
勢揃いし、一人一人が
際だった存在感を放っています。
これだけの技量を
現役の声楽家に求めるのは
酷な部分がある上、
これだけのベスト・メンバーを
揃えることも
資金的な面で現代では難しいはずです。
往年の名歌手たちが一堂に会しての
歌を聴くという意味において、
本盤を超えるものは
ないのではないかと思うのです。
ワーグナー:楽劇「ジークフリート」

ヴォルフガング・ヴィントガッセン
(ジークフリート)
ビルギット・ニルソン(ブリュンヒルデ)
ハンス・ホッター(さすらい人)
ゲルハルト・シュトルツェ(ミーメ)
グスタフ・ナイトリンガー(アルベリヒ)
クルト・ベーメ(ファフナー)
マルガ・ヘフゲン(エルダ)
ジョーン・サザーランド(森の小鳥)
ウィーン国立歌劇場合唱団
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ゲオルク・ショルティ(指揮)
録音:1964年
しかしながら本盤の真の魅力は、
エンターテインメントに徹した
音づくりにあると考えます。
「描写的」とでも
いえばいいのでしょうか、
舞台が見えてくるような、いや、
ワーグナーが構想した幻影的な世界が
しっかりと像を結んで姿を
現してくるような音づくりなのです。
映像収録も可能となった
現代とは異なり、
50年代から60年代にかけての録音です。
再生装置を通して聴く音楽として、
スピーカーの遠く向こうにある舞台の
躍動感・生命感を、
何とかして伝えようとするための
創意工夫に満ちているのです。

効果音の付加などは、
純粋なクラシック音楽からすれば
「邪道」と感じられるかも知れません。
また、音の強弱の誇張なども
好き嫌いが分かれるところでしょう。
「サウンドトラック的」といって
毛嫌いしている方もいるようです。
しかし、これこそが
実演の単純な録音ではない、
真の「録音芸術」だと思うのです。
ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」

ヴォルフガング・ヴィントガッセン
(ジークフリート)
ビルギット・ニルソン(ブリュンヒルデ)
グスタフ・ナイトリンガー(アルベリヒ)
ゴットロープ・フリック(ハーゲン)
クレア・ワトソン(グートルーネ)
D.フィッシャー=ディースカウ
(グンター)
クリスタ・ルートヴィヒ
(ヴァルトラウテ)
ルチア・ポップ(ヴォークリンデ)
グィネス・ジョーンズ(ヴェルグンデ)
モーリーン・ガイ(フロースヒルデ)
ヘレン・ワッツ(第1のノルン)
グレース・ホフマン(第2のノルン)
アニタ・ヴェルキ(第3のノルン)
ウィーン国立歌劇場合唱団
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ゲオルク・ショルティ(指揮)
録音:1965年
前述したように、近年は
オペラの映像版がいくつも登場し、
「リング」も数種類
楽しめるようになっています。
ところがその「映像」が
作品世界のイメージを
壊しているようなものも散見されます。
私は基本的にはオペラは映像版で
楽しむ方がいいと考えているのですが、
「リング」については、
神々の世界のストーリーを、
意味不明なものに矮小化している
演出などはとても見る気が起きません。
また、歌唱力はあるものの
体型や容姿が役柄と不一致である
歌手の登場なども辟易とさせられます。
それよりは本盤のように、
圧倒的な情報量を持った録音の方が、
ワーグナーの構築した世界に、
より接近できると考えます。
ショルティ&ウィーン・フィルの
「ニーベルングの指輪」は、
間違いなく録音芸術の
一つの頂点を極めています。
「音」だけで、聴覚のみならず
五感を通してワーグナーの音楽世界を
体感する。
これこそが「録音芸術」の
真の味わいといえるでしょう。
やはり、音盤は愉し、です。
(2022.12.31)
【関連記事:オペラ作品】
【今日のさらにお薦め3作品】
【こんな音盤はいかがですか】