ペニー・メリメント~17世紀英国のストリート・ソング

これは17世紀のビートルズだ

17世紀はバロック音楽の時代です。
しかし、その時代の音楽は必ずしも
ヴィヴァルディやバッハや
ヘンデルだけではないのです。
それらは主に王侯貴族のものであって、
一般庶民の音楽体験に
資するものではなかったはずです。
むしろ市井の人々にとっての「音楽」とは
このようなものだったのでしょう。

ペニー・メリメント
~17世紀英国のストリート・ソング

Penny Merriments

廷臣たちの健康、
 または時代の陽気な男子たち
田舎の少女
交わる恋人、または良い不幸
田舎者の喜び
まれにこぎれい
ジョン・トムソンと
 妻ジェイカマンの陽気な戯れ
ロンドンの7人の陽気な女房たち、
 またはゴシップの種
古いイングランドは新しくなった
独身男への良い忠告、
 または若い娘の口説き方
ネプチューンの激しい怒り
北の国の恋人たち
ばかげた恋人
踊りの没落
聖人が罪人に変わった
無敵艦隊についての古い歌
女性司令官
灰に包まれたロンドンの悲しみ
有名な鼠とり屋

(演奏)ザ・シティ・ウェイツ
録音:2004年

歌、歌、歌。
立派な歌ではありません。
その辺にいるおじさんやお兄さんが
ほろ酔い加減で歌っているような、
あるいは田舎娘が恥ずかしげもなく
野原で歌っているような、
そんな歌が続きます。

5曲目「まれにこぎれい」はギターと
ヴァイオリンの伴奏でしょうか、
酒場女が酔客に歌っているような
叙情性ある歌は、
どことなく70年代の歌謡曲のようです。
6曲目「ジョン・トムソンと―」には、
まさに「陽気な夫婦の戯れ」が
感じられます。

興味深かったのは8曲目
「古いイングランドは―」です。
旋律はまるで「グリーンスリーヴス」。
解説の英語を読み解く気がない
(能力もない)のでわかりませんが、
何か関連があるのかもしれません。

10曲目「ネプチューンの激しい怒り」は、
タイトルとはまったく逆で、
男女数名の楽しそうなアカペラが
続きます。
まるで誕生日かクリスマスを
祝っているかのようです。
そうかと思えば
12曲目「ばかげた恋人」は、
失恋した男が自らの傷心を歌ったような
70年代フォークソングの趣があります。

Street Songs 17th Cty England

収録時間約70分、一通り聴き通すと
なんとも愉快な気持ちになります。
これこそ庶民の音楽であり
カルチャーだったのでしょう。
音楽という人間の感覚にとって
切り離せないものが、
教会や王侯貴族の間からのみ
発生したはずがありません。
庶民の間からも自然発生的に
音楽は湧き上がり、
進化してきたという当たり前のことを
再確認させられます。
もはやクラシック音楽という感覚で
受け止めることはできません。
帯に書かれている日本語案内には
「当世日本ならさしずめ
J-POPということになりましょう」と
ありますが、イギリスですから
「17世紀のビートルズ」と
表現すべきでしょう。

それにしてもこの愉快なアンサンブル
The City Waites」は
どのような団体か、気になります。
英文のブックレットには
次のような表記があります。
Singers:
Lucie Skeaping(S)
Douglas Wootton(T)
Richard Wistreich(Br)
Instrumentalists:
Robin Jeffrey(lute,theorbo,g)
Michael Brain(recorder)
Roderick Skeaping(fiddle,bass viol)
Nicholas Perry(bagpipes)
楽器編成を見る限り、
やはり純粋なクラシックの
アンサンブルではなさそうです。
試しにCDを検索してみたら、
以下のようなものが出てきました。

Bawdy Ballads of Old England
こちらの邦題は何と
「昔のイングランドのお下劣バラード」。
本盤以上に楽しそうです。

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今日のオススメ!

The English Tradition:
400 Years of Music & Song

Pills to Purge Melancholy

Treasury of Georgian Music

YouTubeでも次のような動画が
見つかりました。

Lucie Skeaping and The City Waites
The City Waites – Old England

さて、本盤は実は2005年の発売当初に
何を思ったか購入し、数回聴いたきり、
CD棚の奥底で十数年眠っていた
CDなのです。
先日発見し、古楽の棚に収納しました。
ネットで新しい盤を探すのも
愉しいのですが、
自宅の至る所に散らばっている
(散らかっているのではない)盤を
再発見するのも愉しいものです。
やはり、音盤は愉し、です。

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(2022.12.11)

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