コヴァセヴィチのベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集

演奏も録音も秀逸、「剛」のピアノ・ソナタ全集

ベートーヴェンの音楽は
聴き飽きることがありません。
演奏家たちが最良を求めて
いろいろなベートーヴェン像を
造っているからです。
ピアノ・ソナタ全集もまたしかりです。
これまでメロディ・チャオや
H.J.リムといった、
若い女性による
「柔」のベートーヴェンを
取り上げましたが、
今日は「剛」の全集です。

ベートーヴェン
「ピアノ・ソナタ全集・バガテル集」
スティーヴン・コヴァセヴィチ

ベートーヴェン:
 ピアノ・ソナタ
[CD1]
  第1番ヘ短調Op.2-1
  第2番イ長調Op.2-2
  第3番ハ長調Op.2-3
[CD2]
  第4番変ホ長調Op.7
  第5番ハ短調Op.10-1
  第6番ヘ長調Op.10-2
  第7番ニ長調Op.10-3
[CD3]
  第8番ハ短調Op.13「悲愴」
  第9番ホ長調Op.14-1
  第10番ト長調Op.14-2
  第11番変ロ長調Op.22
[CD4]
  第12番変イ長調Op.26「葬送」
  第13番変ホ長調Op.27-1
  第14番嬰ハ短調Op.27-2「月光」
  第15番ニ長調Op.28「田園」
[CD5]
  第16番ト長調Op.31-1
  第17番ニ短調Op.31-2「テンペスト」
  第18番変ホ長調Op.31-3
  第19番ト短調Op.49-1
  第20番ト長調Op.49-2
[CD6]
  第21番ハ長調Op.53
   「ワルトシュタイン」
  第22番ヘ長調Op.54
  第23番ヘ短調Op.57「熱情」
  第24番嬰ヘ長調Op.78「テレーゼ」
  第25番ト長調Op.79
[CD7]
  第26番変ホ長調Op.81a「告別」
  第27番ホ短調Op.90
  第28番イ長調Op.101
  第30番ホ長調Op.109
[CD8]
  第29番変ロ長調Op.106
   「ハンマークラヴィーア」
  第31番変イ長調Op.110
[CD9]
  第32番ハ短調Op.111
  11のバガテルOp.119
  6つのバガテルOp.126

スティーヴン・コヴァセヴィチ(p)
録音:1992-2003年

この全集の素晴らしさの一つは、
強靱なタッチによる
明晰なベートーヴェン像にあります。
特別な解釈をしているわけでは
ありません。
ベートーヴェンの音楽を
真っ正面から受け止めて、
音楽そのものの魅力を
十全に弾き出しているような演奏です。
それでいながら
強い打鍵とペダルの多用により、
一音一音が力を持ち、
意味を持って語りかけてくるのです。
一方で、弱音の制御も見事であり、
その結果として
彫りの深い表現を創り上げることに
成功しています。

今日のオススメ!

中でも第4番変ホ長調Op.7は
注目すべき演奏と感じます。
私にとってはOp.7の魅力を
初めて理解することができた演奏です。
そして、
Op.109,110,111の3曲が圧倒的です。
細部まで緻密に練り上げられた
構造美が、壮麗に響き渡ります。

もう一つの素晴らしさは、
優秀な録音です。
コヴァセヴィチの表現を余すところなく
マイクが拾い上げて
音盤にすべて収めたかのようです。
スタインウェイの見事な音色が
堪能できる全集となっているのです。

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演奏と録音がともに優れている
希有な全集であり、
あまたあるベートーヴェンの
ピアノ・ソナタ全集の中でも
極めて完成度の高い一組といえます。
このような素晴らしい音楽遺産を
創り上げながら、なぜEMIは
消滅してしまったのでしょうか。
実はwarnerからこの録音が
廉価BOXで再発されているのですが、

今日のオススメ!

EMIの赤いレーベル・マークの
BOXが欲しくて、
中古を探して入手しました。
BOXのデザインは
演奏や音とは無関係なのですが、
この価値ある全集は、
やはり風格のあるBOXに
収納されているべきです。
それも含めての「音盤」なのです。
やはり、音盤は愉し、です。

〔ベートーヴェンの
 ピアノ・ソナタ全集について〕

冒頭で記した「柔」の全集も素敵です。
若さのはじけるチャオやリムの演奏は
新しい時代の到来を予感させます。
両者とも新録音が登場しないのが
残念なのですが。

「柔」と「剛」の
バランス感覚に優れているのは
フレデリック・ギィの全集でしょう。
録音も新しく、こちらも
新時代の全集といえます。

フォルテ・ピアノによる演奏も
見逃すわけにはいきません。
ブラウティハムの全集はお薦めです。

変わり種としては
プルーデルマシェでしょうか。
4本目のハーモニック・ペダルを
取り付けたピアノによる演奏です。

バックハウスやグルダ、
ブレンデルやケンプの全集も
もちろん素晴らしいのですが、
常に演奏はアップデートされています。
十分に愉しみましょう。

(2022.8.21)

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