新しい発想と感覚による新時代のベートーヴェン
メロディ・チャオというピアニストが
好きです。中国系スイス人の
女性ピアニストですが、
なんと1994年生まれ。
ということは現在まだ28歳。
その彼女が2012~2013年にかけて
録音した(なんと18歳!)この
ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集が
すごいのです。
買ってからもう8年になるのですが、
全く聴き飽きることがありません。
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集
ベートーヴェン:
Disc1
ピアノ・ソナタ
第1番ヘ短調Op.2-1
第2番イ長調Op.2-2
第3番ハ長調Op.2-3
Disc2
ピアノ・ソナタ
第4番変ホ長調Op.7
第5番ハ短調Op.10-1
第6番ヘ長調Op.10-2
Disc3
ピアノ・ソナタ
第7番ニ長調Op.10-3
第8番ハ短調Op.13「悲愴」
第9番ホ長調Op.14-1
Disc4
ピアノ・ソナタ
第10番ト長調Op.14-2
第11番変ロ長調Op.22
第12番変イ長調Op.26「葬送」
Disc5
ピアノ・ソナタ
第13番変ホ長調Op.27-1
第14番嬰ハ短調Op.27-2「月光」
第15番ニ長調Op.28「田園」
Disc6
ピアノ・ソナタ
第16番ト長調Op.31-1
第17番ニ短調
Op.31-2「テンペスト」
第18番変ホ長調Op.31-3
Disc7
ピアノ・ソナタ
第19番ト短調Op.49-1
第20番ト長調Op.49-2
第21番ハ長調
Op.53「ワルトシュタイン」
第22番ヘ長調 Op.54
Disc8
ピアノ・ソナタ
第23番ヘ短調Op.57「熱情」
第24番嬰ヘ長調Op.78「テレーゼ」
第25番ト長調Op.79「かっこう」
第26番変ホ長調Op.81a「告別」
第27番ホ短調Op.90
Disc9
ピアノ・ソナタ
第28番イ長調Op.101
第29番変ロ長調Op.106
「ハンマークラヴィーア」
Disc10
ピアノ・ソナタ
第30番ホ長調Op.109
第31番変イ長調Op.110
第32番ハ短調Op.111
メロディ・チャオ(p)
録音:2012~2013年
雰囲気としては以前取り上げた
H.J.リムの
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集
(こちらは2011年録音2012年発売)と
似ています。
ショパンのような流麗に弾きこなす
ベートーヴェン、
新しい発想と感覚による
新時代のベートーヴェンであり、
全32曲のいたるところに、
それまで見たことのない曲の表情を
聴き取ることができるのです。
バックハウスやギレリスの録音は、
「立派な」甲冑を身につけた
ベートーヴェンのように思えます。
グルダやバレンボイム、
ブレンデルもまた
「立派な」衣装をまとっているように
感じてしまいます。
しかし、この
メロディ・チャオのベートーヴェンは、
チノパンにポロシャツといった
若々しい出で立ちをしています。
思えば、ベートーヴェンとは
「立派なもの」という先入観を、
演奏家も聴き手も
持ちすぎていたのではないでしょうか。
特に素敵なのは
有名曲・Op.27-2「月光」、
Op.31の3曲、
Op.101あたりでしょうか。
また、「ハンマークラヴィーア」を
わくわくしながら聴けるのは、
この盤だけかも知れません。
メロディ・チャオの卓越した技術から
紡ぎ出される美しい旋律に
うっとりとさせられます。
表情が豊かでありながらも
決して重苦しくならず、
音楽が停滞しません。
音が自然と耳に入り、聴き手の脳を
刺激していくかのようです。
もちろん一部には
好きになれない表現はあるものの、
もとより全32曲の完璧な演奏など
あり得るはずがなく、
全体的に見ると
魅力に満ち満ちた全集となっています
(ただし、
従来のしかつめらしい顔をした
ベートーヴェン演奏から
抜け出せない方に聴かせると、
怒り出す可能性の高い全集です)。
若い鮮烈な才能の
持ち主・メロディ・チャオ。
彼女の次の録音をまっているのですが、
なかなか出てきません。
研鑽中なのでしょうか。
気長に待ちたいと思います。
(2022.6.26)
【当盤鑑賞に最適のSAKE】
【メロディ・チャオのCD】
【ベートーヴェン:ピアノソナタ全集】
【今日のさらにお薦め3作品】