レオンスカヤのブラームス・ピアノソナタ全集

若きブラームスの情熱を再現したかのような迫力

ブラームスといえば、4曲の交響曲、
そしてドイツ・レクイエム、
あとはヴァイオリン協奏曲と
いくつかの室内楽を
それなりに聴いてきたのですが、
ピアノ曲には
あまり手を伸ばしていませんでした。
実際、人気という点では
今ひとつなのではないでしょうか。
私が最近聴いているのが、
このレオンスカヤによる
ピアノソナタ全集です。
ブラームスのピアノソナタも
素晴らしい曲なのだと
実感させてくれる演奏です。

「ブラームス・ピアノソナタ全集」
エリザベート・レオンスカヤ

Disc1
ブラームス:
 ピアノ・ソナタ第1番ハ長調op.1
 ピアノ・ソナタ第2番嬰へ短調op.2

Disc2
ブラームス:
 ピアノ・ソナタ第3番へ短調op.5
 パガニーニの主題による
  変奏曲op.35

録音:1988年・1990年

作品番号からもわかるように、
ブラームスの3曲のピアノソナタは、
すべて若い頃に書かれた作品です。
第3番でさえ
20歳のときの作品ですから驚きです。

ピアノソナタ第1番は、
実際には第2番より
後に作曲されています。
この曲をブラームスから聴かされた
師・シューマンは、
「彼はほんとうに驚くべき世界を
あらわにしだした。
そこには変装した
交響曲のようなソナタがあった。」と
述べたと言われています。
ブラームスが第1交響曲を
書き上げるのは、
その20年以上後のことになるのですが、
確かにピアノ・ソナタ第1番からは、
交響曲のような音の厚みを
感じ取ることができます。

ピアノソナタ第2番が、実際には
最も早く完成した作品となります。
そのため、第1番よりも
やはり若書きの感があるのは
やむを得ないところです。
交響曲もそうなのですが、
ブラームスはピアノソナタでも
ベートーヴェンを強く
意識していたのではないでしょうか。
ベートーヴェンの
後期のピアノ作品にも通じる
叙情的な面が見られるとともに、
試行錯誤の形跡も感じ取れます。

ピアノソナタ第3番はブラームスの
最後のピアノソナタとなったのですが、
第1番第2番とは比べられないくらいの
完成度の高さと考えます。
後の交響曲に通じるような
健固で緻密な構成、
燃え立つような情熱の表現等々、
ブラームスらしさが
全編に漲っているように感じます。
おそらくこれ以上のものは、
ピアノソナタという音楽の器には
入りきらないと判断したのでしょう。
ブラームスは交響曲完成に向けて
ひたすら歩を進めることになります。

さて、レオンスカヤの演奏ですが、
かなり力強い演奏を聴かせてくれます。
レオンスカヤのピアノを
あまり聴いたことはないのですが、
CDのレビュー等を見る限り、
「女性的な」演奏をするピアニストと
私は捉えていました。
ところがどうしてどうして、
第1番第2番では実に堂々とした演奏を
繰り広げています。
そして第3番では、
それに加えて緻密な表現も見られます。
叙情的な部分も
実に美しく弾ききっています。
若きブラームスの情熱を
そのまま再現したかのような
迫力に満ち満ちています。

レオンスカヤは
まだ演奏活動を継続していて、
来年2月にはモーツァルトの
ピアノソナタ全集のリリースが
決まっています。
ジャケットの写真を見る限り、
失礼ながら、かなりお年を召された
印象を受けるのですが、
どんな素敵な演奏を
聴かせてくれるのでしょうか。
今から楽しみです。

(2021.12.12)

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