ムターの個性全開、何とも艶っぽいゴージャスな演奏
星の数ほどもあるメンデルスゾーンの
ヴァイオリン協奏曲録音。
お気に入りのヴァイオリニストのCDを
集めようとしてしまうと、
必ず買ってしまいます。
往年の巨匠のCDボックスを買うと、
必ず中に入っています。
でも、その中でひときわ輝いているのが
女王ムターの奏でる本盤だと思います。
メンデルスゾーン
「ヴァイオリン協奏曲」
メンデルスゾーン:
ヴァイオリン協奏曲ホ短調Op.64
アンネ=ゾフィー・ムター(vn)
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管
クルト・マズア(指揮)
メンデルスゾーン:
ピアノ三重奏曲第1番ニ短調Op.49
アンネ=ゾフィー・ムター(vn)
アンドレ・プレヴィン(p)
リン・ハレル(vc)
メンデルスゾーン:
ヴァイオリン・ソナタ ヘ長調(1838)
アンネ=ゾフィー・ムター(vn)
アンドレ・プレヴィン(p)
録音:2008年
※同内容のDVD付き
ムターは1980年にカラヤンと
このヴァイオリン協奏曲を
録音しています。
そちらは「ムターの演奏」というよりは
「カラヤンの録音」といった方が
いいのでしょう、
終始カラヤン・ペースで進行し、
ムターの初々しさ・瑞々しさは
表れているものの、本来の個性は
表現されていないように思えます。
マズアと組んでの約30年ぶりの
録音となる本盤ですが、
ムターの個性が全開したような
名演奏となっています。
何とも艶っぽい
ゴージャスな演奏なのです。
強弱のメリハリが効き、
囁くような弱音に
思わずドキリとさせられます。
ところどころに見せるポルタメントも
官能的であり、一歩間違えば
「悪趣味」ととらえられるほどです。
指揮者マズアの
どちらかといえば淡泊な伴奏が、
ムターのそうした「艶っぽさ」を
存分に引き立てているのです。
この曲はこれほどまでに
妖しげに奏でることができるのかと
驚かされます。
メンデルスゾーンがこのような演奏を
望んで作曲したかどうかは別として、
これほどの濃密な表現は、
やはり女王ムターにしか
できないものではないかと思います。
ジャケットも80年のものと比べて
なんともゴージャス、
薄紫の背景に艶やかなドレス、
美しすぎます。
その「艶っぽさ」は次のピアノ三重奏曲、
そしてヴァイオリン・ソナタでも
続きます。
元夫のピアニスト・プレヴィンと
何とも息のあった演奏です。
夫婦の甘い語らいを
聴いているかのようです
(その睦まじい夫婦の語らいの傍らで、
淡々と自分の仕事をこなすかのように
チェロを弾いているリン・ハレルが
いい味を出しています)。
協奏曲も素敵なのですが、
むしろ本盤はこの2曲の室内楽こそ
広く聴かれるべき
名演奏なのではないかと思います。
メンデルスゾーンの
ヴァイオリン協奏曲は、
わかりやすい曲だけに、
かつては新人ヴァイオリニストの
デビュー録音に選ばれることも多く、
それだけに玉石混淆とした
様相を示しています。
また、近年は抑制的な演奏も目立ち、
「わかりやすさ」や「色艶」とは異なる
次元の解釈も多々登場しています。
おそらく本盤は、
「ロマン派の音楽」を思い切り
「ロマンティックに」表現した録音の
最右翼であり、
それは今後もう表れないであろう
最後のものなのかも知れません。
このゴージャスな録音を、
CDとDVDの両方で愉しめます。
やはり、音盤は愉し、です。
(2021.10.3)
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