フンメルのヴァイオリン協奏曲

ひっそりと野に咲く花のような作品

大分前に購入したCDを、
棚の中から発掘しました。
フンメルのヴァイオリン協奏曲です。
フンメルの協奏曲といえば
まず思い浮かぶのは
トランペット協奏曲、
続いてピアノ協奏曲
(何と第5番まであった!)、
あとはモーツァルトのピアノ協奏曲の
室内楽編曲ぐらいだったので、
その存在も購入も、
すっかり忘れていたのです。

フンメル:
ピアノとヴァイオリンのための協奏曲
ヴァイオリン協奏曲

フンメル:
 ピアノとヴァイオリンのための
  協奏曲ト長調op.17
 ヴァイオリン協奏曲ト長調
  (グレゴリー・ローズ補筆・完成)

アレクサンドル・
 トロスティアンスキー(vn)
ポリーナ・オセティンスカヤ(p)
グレゴリー・ローズ(指揮)
ロシア・フィルハーモニー管弦楽団

1曲目のピアノと
ヴァイオリンのための協奏曲ですが、
ピアノとヴァイオリンの2つは
それぞれ楽器の中では花形であり、
しかも異質です。
それらが並び立つ二重協奏曲というのは
数少ないのですが、
フンメルはそれぞれの持ち味を
前面に出すような曲作りに
成功しています。
しかもモーツァルト的な
古典的様式美を備えており、
ところどころにチャーミングな旋律も
聴き取れます。
また、ピアノとヴァイオリンの
掛け合いも素敵です。

なぜこの曲が
一般的に広まらなかったか?
不思議な気もします。
ただ、この演奏を聴く限り、
この曲はピアノもヴァイオリンも、
名人芸をこれ見よとばかりに
主張すべき曲ではないのだと思います。
それぞれの名人たちにとっては
腕の見せ所がなく、
また2つの独奏楽器と
オーケストラのバランスをとるのも
指揮者にとって
難しかったのかもしれません。
何にしても本盤の登場で、
この素敵な作品を味わえるのは
ありがたいことです。

もう一曲のヴァイオリン協奏曲ですが、
指揮者のグレゴリー・ローズの
補筆・完成とあるからには
未完の作品だったのでしょう。
本ヴァージョン世界初録音とも
ありますので、他の補筆版も
存在するのかもしれません。
いずれにしてもピアノとヴァイオリンの
協奏曲よりも珍しい作品のようです。

ローズの補筆のせいでしょうか、
それともこういう構成の
曲なのでしょうか、
こちらは二重協奏曲よりも
オーケストレーションに厚みがあり、
ロマンティックな雰囲気が漂います。
また、ヴァイオリンも技巧の発揮が
要求されるような箇所が散見され、
聴きどころとなっています。

そしてなんといっても
第2楽章アダージョの
もの悲しげなメロディが秀逸です。
もっと演奏されてしかるべき曲だと
感じます。

録音のせいでしょうか、
ヴァイオリンの音が
今ひとつ美しく収録されていません。
この曲をシャハムやファウストといった
ヴァイオリニストが弾いたら、
どんな風に聞こえるだろうと、
ついつい想像したくなってしまいます。

いずれにしても誰も知らない野に
ひっそりと咲く綺麗な花を
見つけたような気分です。
もっと広く
知られて欲しいという気持ちと、
誰にも知られずに自分だけの
楽しみにしたいという気持ちの両方が
湧き起こります。
フンメルの秘曲、いかがでしょうか。

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