リヒターのマタイ受難曲

これは人類の宝だ!

どちらかといえば新しい録音が好きで、
好きな曲の新録音版には
いつも注目しています。
どちらかといえば新しい解釈が好きで、
伝統を打ち破るような
素敵な演奏を探してしまいます。
どちらかといえば
少人数での演奏が好きで、
颯爽としてクリアな音づくりのものに
手を伸ばしてしまいます。
でも、この曲だけは違います。
この盤の魅力は圧倒的です。

J.S.バッハ:マタイ受難曲 BWV.244

エルンスト・ヘフリガー
キート・エンゲン
アントニー・ファーベルク
マックス・プレープストル
イルムガルト・ゼーフリート
ヘルタ・テッパー
ディートリヒ・
 フィッシャー=ディースカウ
ミュンヘン少年合唱団
ミュンヘン・バッハ管弦楽団&合唱団
指揮:カール・リヒター
録音:1958年

言わずと知れた
リヒター指揮による名盤です。
リヒターによる解釈と演奏は、
バッハが嫌いな私の心にも、
重い演奏の嫌いな私の心にも、
無神論者である私の心にも、
切々と染み入ってくるエネルギーに
満ち満ちているのです。

曲自体ももちろん素晴らしいのです。
単に「音楽」として聴く分には、
ガーディナーの旧版を愛聴しています。
むしろガーディナー盤の再生回数の方が
多いくらいです。
もう一つ所有している
カラヤン盤も素敵な演奏です。
しかし、リヒター盤には
これら2つにはない
「特別な緊張感」があるのです。

この演奏を聴くと、
自分の精神が限りなく内省的になり、
日頃の行いを
ついつい反省してしまいます。
まるで神様の前に
立たされたかのようです
(私は神を信じていないのですが)。
それ故、BGMのように
聴き流すことなどできず、
背筋を伸ばして
集中して聴くこととなります。
結果、疲労感も並大抵ではなく、
私の場合は5年に一度くらいの
頻度でしか聴き通せません
(昨日5年ぶりに聴きました)。
もはや「音楽鑑賞」ではない、
何か別の体験をしているかのように
感じます。

有無を言わさぬ圧倒的な名盤です。
人類の宝と言っても
過言ではないはずです。

ただし、「音楽」としてのマタイには、
まだまだ別の魅力があるとも
感じています。
21世紀に入ってからの新録音に、
そろそろ手を出してみようかと
考えています。

(2021.2.21)

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