バッハ・ケージ・ラヴェル 組み合わせの妙

バッハ、ケージ、ラヴェルのピアノ協奏曲集

気まぐれでCDを買うことが
多くなりました。
ジャケットに
美人のお姉さんが写っていたり、
センスのよい
ジャケットデザインであったり、
珍しい作曲家であったり、
面白そうなものを(安い値段であれば)
ついつい買ってしまいます。
これもその一枚です。

しかし、この一枚は、
ジャケットのセンスの良さでもなく、
アーティストの容貌でもなく、
曲の「組み合わせの妙」に期待して
購入したものです。
バッハ、ケージ、ラヴェルの
ピアノ協奏曲集です。
全く共通性のない
三者のピアノ協奏曲を並べて、
どんな効果があるのか?

バッハ、ケージ、ラヴェルの
ピアノ協奏曲集

オレン・シャニ(ピアノ)
ライオル・シャンバダル(指揮)
ブダペスト交響楽団
J.S.バッハ:
 ピアノ協奏曲第1番ニ短調BWV1052
ケージ:
 プリペアード・ピアノと
 室内管弦楽のための協奏曲
ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調

一曲目のバッハ。
聴き慣れた旋律が飛び込んできます。
安心して聴いていられたのですが、
問題は二曲目のケージです。
あまりの「わからなさ」に
閉口してしまいます。
明確な旋律もなく、
プリペアド・ピアノの不思議な打鍵音が
鳴り響くのですから。

しかし、そのギャップが
心地よく感じられました。
ケージの音楽を、
CDまるまる一枚分聴き通すのは
辛いものがありますが、
旋律の明快なバッハの後に聴くと、
耳が今度は旋律ではなく
現れてくる一音一音の音の表情の変化を
聴き取ろうとするのです。
静寂な世界の中に次々と立ち現れる音。
プリペアド・ピアノの
魅力が伝わってきます。

そして
ラヴェルの協奏曲に切り替わると、
場面がさらに大きく転換します。
それまでの
無機質で淡色だった音響空間が、
彩り艶やかな音の洪水へと
変化したかのような印象を受けます。
第2楽章に移行しても
その美しさが際立って感じられます。
そして第3楽章。
圧倒的なエネルギーの奔流で
音楽は幕を閉じます。

能でいう「序破急」の構成でしょうか。
バッハ、ケージ、ラヴェルの音楽が、
せめぎ合い、刺激し合い、
お互いの立ち位置を際立たせる効果を
発揮しているのです。
そしてあたかも三作品で紡がれた
一つの物語を味わったかのような
感覚を覚えます。
まさに「組み合わせの妙」なのです。

ピアニストのオレン・シャニ。
無名のピアニストですが、
ネット上の情報では
「1977年テル・アヴィヴ生まれ」
「ルビン・アカデミー・コンクール等の
イスラエル国内のコンクールで入賞」
「ジョン・オコーナー、
アレクシス・ワイセンベルクらに
教えを受けた」
「2001年には
スイスのヴェルビエ音楽祭と
ドイツの
シュレスヴィヒ=ホルシュタイン
音楽祭で演奏」などとありました。
CDはこれ一枚しか
出ていないようです(私の調べた限り)。

「telos Music」というレーベルも
あまり知られてはいません。
ドイツのマニアックな
レーベルのようですが、
2014年頃には活動を停止、
公式HPも閉鎖されています。
そうしたことを考え合わせると、
本盤はいずれ忘れ去られる
運命にあると推測されます。

世の中から忘れ去られても、
自分だけは記憶していたいと思う
一枚です。

(2020.11.28)

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