アバドのモーツァルト・レクイエム

版の問題はさておいて素晴らしい演奏・録音

モーツァルト「レクイエム」

ラヘル・ハルニッシュ(S)
カリタ・マッティラ(S)
サラ・ミンガルド(M-S)
ブリン・ターフェル(B-Br)
ミヒャエル・シャーデ(T)
スウェーデン放送合唱団
ベルリン・フィル
クラウディオ・アバド(指揮)

録音が優秀であり、
合唱もオーケストラも
非常に良く聴こえてきます
(一部男声パートが弱い部分があるのが
やや気になりますが)。
演奏会場が教会
(ザルツブルク大聖堂)であるものの、
残響はさほどきつくなく、
聴きやすい良好な音質だと感じます。

バスをオペラで活躍している
ブリン・ターフェルが
担当しているせいもあり、
ところどころで劇的な表現の多い
演奏となっています。
アバドも「追悼」演奏会であることを
あまり意識していないのでしょう、
音楽は重くならず、
むしろモーツァルトらしい
きびきびとした進行となっています。

本盤は1999年の
カラヤンの没後10年記念の演奏会を
収録したものです。
ベルリン・フィルの前任者カラヤンの
追悼演奏会に臨んだアバドですが、
本演奏の半年後に
病で倒れてしまうとは、
そのときは想像だにできませんでした。

ところで、
このモーツァルトの「レクイエム」は、
周知の通り未完成の作品を
弟子のジュスマイヤーが
補完して仕上げた作品です。
そしてその補作部分に
不備が散見されるため、
後世の学者たちがこぞって改訂版を
創作しています。
そのため、現在数種の楽譜が存在し、
それに伴い多種多様な演奏が
登場しているのです。
クラシックCDの中で、
これほど多様性に富んだ楽曲は
他にはないでしょう。

そうした中で、このアバド盤は
「バイヤー版」と「レヴィン版」の
折衷版を使用しています。
中途半端と言えなくもないのですが、
アバドなりの考えあっての
試みなのでしょう。
「バイヤー版」だと思って聴き進めると、
ところどころで
聴き慣れない旋律が聴こえてきます。
これが極めて新鮮に感じられます
(どこがどう異なるのか
私の知識では説明できませんが)。
様々なバージョンの「レクイエム」が
存在していますが、この盤もまた、
個性の強い演奏となっています。

同じ演奏を収録したDVDを
購入したため、
CDは20年間スルーしていました。
今回購入しましたが、
音質はやはりCDの方が優れています。
なお、DVDの方は
アバドが健在だった頃の面影を伝える
貴重な映像であり、
無視するわけにはいきません。
私はCDのプラケースを
2枚用のものに切り替え、
CDとDVDを一つにして収納しています。

版の問題を気にしなければ、
ファース・チョイスとしても
十分お薦めできる演奏です。
ぜひお聴きください。

(2020.9.19)

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