ベートーヴェン:ピアノソナタ第30番~第32番
今年2020年は、
ベートーヴェン・イヤーです。
18世紀から19世紀を生きた
ドイツの大作曲家ベートーヴェンの
生誕250周年にあたるのです。
各レーベルから次から次へと
発売されているベートーヴェン作品の
新録音盤の中でも、
この盤の存在は白眉でしょう。
ベートーヴェン
ピアノ・ソナタ 30-32
ベートーヴェン:
ピアノ・ソナタ
第30番ホ長調Op.109
第31番変イ長調Op.110
第32番ハ短調Op.111
マウリツィオ・ポリーニ(p)
録音:2019年
1975年録音の第30番、第31番から
始まり、39年かけて完成された
ポリーニのベートーヴェン・チクルス。
旧盤の完成度が非常に高く、
再録音など考えられませんでした。
今頃になってなぜ再録音か?
レコード会社に踊らされたか?などと
疑問を感じながらも
スルーなどできようはずもなく、
購入してしまいました。
もうすでに80に手が届く
年齢になっているにもかかわらず、
技能の衰えは感じられません
(編集で修復しているのかも
知れませんが)。
小気味よいテンポで颯爽と弾ききる
当盤でのポリーニの演奏は、
旧盤に馴染んだ私には
違和感が残りました。
32番第1楽章などは、
旧盤8分42秒に対して新盤7分40秒。
そうした単なる演奏時間以上に、
旧盤に存在していた「重さ」が
なくなっているように
感じられるのです。
堅牢な建築物を創り上げたような
ポリーニの45年前の旧盤。
「重さ」と「深さ」が感じられ、
若くして早くも
ベートーヴェンの深奥に達したような
演奏だと感じてきました。
新盤はそうしたものが捨象され、
まるで一人の青年が
自由闊達にベートーヴェンを
弾ききっているように感じられます。
旧盤と新盤を聴き比べると、
どちらが若い頃の演奏か
分からなくなるくらいです。
おそらくこれが、
ポリーニが45年かけて到達した
「進化」なのでしょう。
ベートーヴェンという人物像に
まとわりついている
重苦しい衣装をすべて取り払い、
ベートーヴェンが残した楽譜のみに
忠実に向き合い、
ただただそこに書かれてある音楽を
体現したかのような演奏です。
旧盤とも長くつきあいましたが、
この新録音盤とも
長い付き合いになりそうです。
ベート-ヴェン・イヤーにふさわしい
素晴らしい一枚です。
〔ポリーニのベートーヴェン〕
(2020.9.6)
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