ぶっ飛んでいいのだろうか?いいのです!
昨日バティアシュヴィリの
ベートーヴェン・ヴァイオリン協奏曲を
取り上げましたが、
このコパチンスカヤ盤は
また違った意味で衝撃的です。
ベートーヴェン:
ヴァイオリン協奏曲ニ長調
ベートーヴェン:
ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.61
ロマンス第1番
ロマンス第2番
ヴァイオリンと
管弦楽のための断章Woo5
コパチンスカヤ(vn)
シャンゼリゼ管弦楽団
フィリップ・ヘレヴェッヘ(指揮)
最近の流行に習って、
コパチンスカヤもピリオド奏法を
取り入れていますが、
コテコテの古楽器演奏でもなく、
かといって表面をなでているだけでも
ありません。
ベートーヴェンの音楽に合わせて、
最も効果的な弾き方を
選んでいるような印象があります。
いや、そのようなことよりも、
聴き進めていくと
「こんな曲だったっけ?」という部分が
何箇所も登場します。
特に第一楽章のカデンツァには
驚かされます。
今までベートーヴェンの
ヴァイオリン協奏曲は、
真面目な気持ちで
一生懸命聴くべきものとの
先入観がありましたが、
こんな刺激的な曲だったとは
思いもよりませんでした。
Op.61の動画がYouTubeにあります。
指揮は本盤と同じヘレヴェッヘですが、
オケはフランクフルト放送響です。
好きなことを
思いっきりしている感じです。
こんなにぶっ飛んでいいのだろうかと
心配にもなるくらいです。
いいのです。
聴いていておもしろいのですから
いいのです。
近年楽譜に忠実に演奏することだけが
重視されているような中、
周りの目を気にせず
こんな自由奔放な演奏ができるなんて
最高です。
なお、この盤に先立ってリリースされた
ファジル・サイとの
クロイツェル・ソナタは
もっとぶっ飛んでいました。
考えてみると、ヴァイオリニストが
即興的な装飾を加えて演奏することなど
昔はごく普通に行われていたのです。
コパチンスカヤの姿勢は、
新しいものであるとともに
ヴァイオリニストとしての原点回帰とも
いうべきものでしょう。
やや気になるのはプログラムです。
Op.61だけでなく
ベートーヴェンの2曲のロマンス、
そして断章Woo5まで
入れているのはありがたいのですが、
こうした同じ作曲家の音楽のみで
構成されたアルバムは、
彼女のディスコグラフィにおいては
この盤一枚だけなのです。
ベートーヴェンと異なる時代の協奏曲
(例えばストラヴィンスキーなど)を
ぶつけた方が、より彼女らしい
盤になったのではないかと思われます。
もしかしたらクロイツェル・ソナタで
ぶっ飛びすぎたので、
制作会社の偉い方などから
「まじめにやれ!」と
横やりなど入ったのでしょうか。
さて、前回取り上げた
バティアシュヴィリが
都会的秀才的であるならば、
このコパチンスカヤは
野性的天才的といえるかもしれません。
この二人のヴァイオリニストから
目が離せません。
いやいや、目が離せないのは
この二人だけではありません。
先鋭的な演奏を聴かせる
ヒラリー・ハーン盤、
卓越した技術のバートン=パイン盤、
ダイナミックで躍動感のある
ジャニーヌ・ヤンセン盤、
美しい音がエレガントな
イザベル・ファウスト盤、
未完の大器の期待を抱かせる
クララ・ジュミ・カン盤などなど、
今やベートーヴェンの
ヴァイオリン協奏曲は
若手女性ヴァイオリニストが
おもしろくしている感さえあります。
クラシックはまだまだ
魅力に満ちた音楽世界なのです。
(2020.8.15)
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