ベートーヴェンの音楽が違って聴こえてくるのです
昨日取り上げたバティアシュヴィリの
「シティ・ライツ」も素晴らしいのですが、
ソニー時代のこの盤もまた
彼女の音楽性の高さが現れた
アルバムです。
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲
バティアシュヴィリ
ツィンツァーゼ:
6つの小品
Mzkemsuri
Suliko
Lale
Indi Mindi
Zinzkaro
Sachidao
バティアシュヴィリ(vn・指揮)
グルジア室内管弦楽団
ベートーヴェン:
ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.61
バティアシュヴィリ(vn・指揮)
ドイツ・カンマーフィル
聴き始めて驚くのは冒頭に置かれた
ツィンツァーゼ(1925-1992)の音楽。
この作曲家はバティアシュヴィリと同じ
ジョージア出身。
おそらく彼女が本盤を通じて
世に問いたかったのは
こちらの方なのだろうと想像できます。
彼女にとって
このツィンツァーゼの音楽は、
ベートーヴェンに匹敵するくらいの
存在なのでしょう。
第1曲の冒頭の
パーカッションの躍動感と
民族音楽的な情緒豊かな旋律、
第2曲の郷愁に満ちた旋律を
歌うヴァイオリン、
第3曲の明るくリズム感のある舞曲、
第4曲の起伏の激しい曲調、
第5曲の切ないほどの
ヴァイオリンのメロディ、
第6曲の土着的な音色を
響かせるヴァイオリン、
中東的色彩の濃い、
心の躍るような音楽でした。
これでは全くベートーヴェンの音楽とは
かけ離れているではないか!
彼女はなぜこの曲をベートーヴェンと
一緒の盤にしたのか?
しかし、そのまま連続して
ベートーヴェンに突き進むと、
そんな疑問は氷解します。
やや速めのテンポで進行し、
音楽をことさら重くせず、
明るく豊かな旋律を強調した演奏、
のびのびと歌い上げるヴァイオリン。
ベートーヴェンの音楽が
違って聴こえてくるのです。
もはやしかめっ面をした
ベートーヴェンはそこにいません。
音楽の愉しさを伝導しようという
愉悦に満ちた表情の
ベートーヴェンの姿が
立ち現れてくるのです。
二つの演奏は、
彼女がヴァイオリンだけではなく
指揮も行っています。
しかもオーケストラを
両曲との相性を考えて
使い分けているのです。
収録当時彼女はまだ28歳。
完全に自分の音楽を創り上げています。
私は当盤に出会って以来、
彼女のそうした
音楽を創造していく才能を
聴きたいと思い続けていました。
当盤以前のシベリウスと
リンドベルイの協奏曲の組み合わせも
絶妙でした。
またドイツ・グラモフォンに
移籍した後の
ショスタコーヴィチの協奏曲に
カンチェリやペルトの音楽を
組み合わせた盤や
ブラームスの協奏曲に
クララ・シューマンの
小品を入れた盤などは
聴き応えのあるものでしたが、
チャイコフスキーとシベリウスの
カップリング盤などは
彼女のセンスが
全く生かされていないという点において
残念なものでした
(演奏自体は素晴らしいが
彼女の良さが現れていない)。
ぜひ次は本格的なヴァイオリン協奏曲
(バルトークあたりが彼女に
適していると思うが)を取り上げ、
このようなアルバムを
発表してくれることを
期待したいと思います。
(2020.8.14)
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